研究課題/領域番号 |
20K05221
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
杉山 茂 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (70175404)
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研究分担者 |
加藤 雅裕 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (80274257)
霜田 直宏 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 助教 (50712238)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イソブタン / イソブテン / 脱水素 / 炭素析出 / 酸化ニッケル触媒 / アルミナ担体 / 触媒劣化耐性 / カーボンナノチューブ |
研究実績の概要 |
申請時には、二酸化炭素存在下におけるイソブタンからイソブテンへの直接脱水素反応をγ-アルミナ担体に担持した酸化ニッケル触媒(NiO/γ-Al2O3)で行うと、通常の脱水素反応では通塔時間とともに触媒活性が低下するが、通塔時間とともにイソブテン収率が増加する現象を見出していた。この原因を解明すべく以下の検討を行った。まず、様々な担持量を持つNiO/γ-Al2O3を用いて活性を検討したところ、NiOの特定の担持量(18~23wt%)の時に通塔時間に伴う活性改善挙動が見られた。例えば、20wt%の担持量においてイソブテンの収率が通塔45分後では1.6%であったのが、通塔6時間後には7.9%まで改善された。また、原料ガス中のイソブタンの分圧を上げると、この活性改善挙動はより明確に見られた。反応後には触媒上に著しい炭素析出が観測されたために、イソブタンによる予備処理を行い、炭素析出を故意に触媒上に形成させ、その後通常の接触反応を行ったところ、予備処理時間の増加とともに、通塔45分後のイソブテン収率が向上した。例えば、予備処理時間を0、1、3、5、7時間とすると、通塔45分後のイソブテン収率は、1.6、1.7、6.8、11.7、12.5%と改善した。しかし、その後の活性の改善挙動は、予備処理時間とともに抑制され、予備処理時間を0、1、3、5、7時間とすると、通塔6時間後のイソブテン収率は、7.9、9.1、16.4、18.6、15.9%であった。つまり、予備処理時間とともに炭素析出量が多くなりすぎると活性改善挙動が抑えられることが明らかになった。この挙動は、α-Al2O3担体では見られるが、シリカ担体では見られない。反応後の触媒を、FE-SEMで観測するとカーボンナノチューブ状の炭素析出が見られるとともに、XRDからは金属ニッケルまたはニッケルカーバイトと同定できる化学種が検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述の結果から、NiO/γ-Al2O3触媒による二酸化炭素存在下におけるイソブタンからイソブテンへの直接脱水素反応に見出されていた通塔時間に伴う活性改善挙動の原因として以下のような仮説を立てることができた。まず、通常の接触脱水素では、通塔時間に伴って活性が低下するが、この原因は大きく分けて2つの因子が指摘されている。一つは反応に伴う炭素析出であり、もう一つは触媒活性成分のシンタリングであるが、本触媒系では双方を抑えていることが明らかになってきた。通常の炭素析出は炭素質が触媒表面上を覆ってしまうように形成されるために、一度炭素析出で触媒表面が覆われると失活する。しかし、本触媒系ではカーボンナノチューブが形成され、チューブ間を反応物質が通過できる。したがって、活性の通塔時間に伴う著しい活性の低下が観測されなかったと考えられる。さらに、カーボンナノチューブが触媒活性種であるニッケル化学種周りに生成すると、ニッケル化学種同士のシンタリングも抑制され、活性の低下に至らなかったと考えられる。ただし、これだけでは、通塔時間に伴う活性の向上を説明することができない。そこで我々は、接触脱水素反応に活性を示すといわれる金属カーバイトに着目した。本触媒系では、ニッケルカーバイトが当たるが、金属ニッケルとニッケルカーバイトのXRDパターンがほぼ同じであるために、本触媒系でもニッケルカーバイトの形成は排除できない、実際にカーボンナノチューブの先端にニッケル金属種が形成される現象も報告されており、本触媒系でも同様と考えることができる。申請時には、接触脱水素であるにもかかわらず、通塔時間とともに活性が改善するという特異な触媒活性の挙動しか明らかにできていなかったが、1年間の検討でこのような仮説を構築することができたため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
二年度目は仮説の立証と何故ニッケル酸化物をアルミナに担持した場合にのみこのような現象が現れるのか、またイソブタンの脱水素反応の場合にのみこのような現象が観測されるのかという点を解明するため、以下の方策を考えている。第一に解明したい点は、ナノチューブ状ニッケルカーバイト種が形成されていることを確認することである。このことについては、令和3年度から研究代表者が研究活動を行っているキャンパスで、ナノオーダーの定性定量分析な可能な空間分解能を持つエネルギー分散型X線分析装置を搭載した透過電子顕微鏡が稼働するので、この装置を用いて明らかにしたい。第二に解明したい件は、α-およびγ-アルミナを担体とした場合にのみ、このような活性改善挙動が見られ、シリカの場合は見られないため、担体をシリカ-アルミナの二元系担体にして、上記のニッケルカーバイドのような活性種が形成しやすい条件を検討したい。第三に解明したい点としては、何故イソブタンを反応基質に用いた場合に、このような活性の改善挙動が観測されるかを解明することである。このために、2種類のアプローチを考えている。まず、先に述べたイソブタンによる前処理を、メタン、エタンおよびプロパンで実施し、イソブタンの結果と比較し、どの炭化水素を用いて前処理を行った場合が、活性改善に寄与するかを明らかにしたい。前処理の炭化水素を変えることによって、形成するカーボンナノチューブの性質も大きく異なり、場合によっては通常の炭素析出に至ることも考えられる。このアプローチの結果に基づき、最適な前処理用炭化水素を用いて処理を行いてイソブタンの直接脱水素を検討し、さらには反応ガスをメタン、エタン、プロパンに変え、それぞれの接触脱水素反応を行い、通塔時間とともに活性が改善するかということを検討し、本改善挙動の出現領域を確立していきたい。
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備考 |
関連書籍 書籍タイトル:触媒の劣化対策、長寿命化(全ページ数57頁) 杉山 茂執筆担当:第6章 資源・エネルギー触媒の劣化対策、長寿命化 第5節 触媒劣化因子を逆手に取った触媒開発、pp.278-288、2020年11月発行、技術情報協会(東京)、ISBN978-4-86104-814-2 C3043
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