本研究は申請者らが独自に開発したマイクロバイオーム動態解析法をもとに、様々な微生物を含む「微生物叢」を用いたバイオプロセスにおいて、培養温度などの環境因子の違いが個々の細菌の増殖に与える影響を簡便かつ詳細に解析し、微生物叢を用いたバイオプロセスの高機能化・高度化に活用する新しい手法を確立することを目的とした。従来のマイクロバイオーム解析法が疫学的・統計学的であるのに対し、本研究で確立を目指す解析法は工学的・速度論的手法であることを特徴とする。 本研究では使用する微生物叢として硝化細菌を含む細菌叢を用い、アンモニアを含む培地において、環境因子として培養温度の異なる培養での個々の細菌の比増殖速度への影響を解析した。この培養の特徴は、アンモニアとその酸化で生じる亜硝酸がアンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌のエネルギー源となり、消費された基質が次の基質へと連鎖する生態系を形成することにある。 25℃、2週間でアンモニアが亜硝酸を経て完全に硝酸に酸化される培養条件を決定し、24時間ごとに培養液を採取して得られた細菌叢のDNAを抽出して、16SリボソームRNA遺伝子の解析から各細菌の時系列での組成変化(増殖)を把握した。この増殖曲線をクラスター解析し、増殖曲線の類似するアンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌をグループ分けし、各細菌の比増殖速度等を導出した。各グループに属する硝化細菌の増殖の特徴づけには、比増殖速度に加え、指数増殖期の開始期と終了期を増殖パラメータとして付加することが効果的であった。この解析手法に基づき30℃での硝化細菌の増殖パラメータを導出して25℃と比較した結果、どのグループも比増殖速度が増加し、開始期・終了期が早まっていた。以上より、微生物叢に含まれる各微生物の増殖パラメータを簡便に解析し、培養温度等の環境因子による影響を評価する手法を構築することができた。
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