がんに対する治療法の1つとして抗がん剤を用いた化学療法がおこなわれるが、重篤な副作用が問題になっている。そこで、効果的で副作用のない抗がん剤の開発が求められている。また、早期にがんを検出し、生存率を改善することは最も重要ながん治療の試みであるが、これらの診断方法には被爆や検出感度などの問題点があり、簡便で正確性の高い診断方法が必要である。適度な流動性をもつHLは、細胞膜流動性の低い正常細胞には作用せず、細胞膜流動性の高いがん細胞にのみに選択的に融合することが明らかになっている。この正常細胞に作用せず、がん細胞のみに選択的に融合・蓄積するHLの性質を利用し、抗がん剤を全く含まないHLを用いて、がんの中でもとりわけ悪性度の高い大腸がんおよび乳がんに対する効果的な化学療法を目指す。さらに、近赤外波長を持つ蛍光試薬(インドシアニングリーン(ICG)含有HL(ハイブリッドリポソーム)/ICG)を用いて、早期がん検出とメカニズムを明らかにし、非侵襲で体に負担のないがんの診断薬を開発することを目的として研究を進めた。 (1) 素材として無毒性のリン脂質とPEG系直鎖型界面活性剤を構成成分とするHLを用い、(2) がん治療を目指し、in vitroおよびin vivoにおけるヒト大腸がんおよび乳がんに対する治療効果、アポトーシス誘導メカニズムを検討した。(3) がん検出を目指し、in vitroおよびin vivoにおけるHL/ICGのがん細胞および腫瘍への蓄積観察とメカニズムの解明を試みた。さらに、正常動物に対する安全性試験、体内動態試験を実施した。また、腫瘍へHL/ICGが集積した後に近赤外光を照射し、活性酸素の発生による光線力学的がん治療への応用も試みた。
|