研究実績の概要 |
細胞培養へ疎水性イオン液体1-butyl-1-methylpyrrolidinium bis(trifluoromethanesulfonyl)imideを添加する二相培養系によりパクリタキセル生合成が向上する知見を得ていたことから、イオン液体の増量によってパクリタキセルの生産性のさらなる向上を目指した。イオン液体の添加量を増加させる実験を行った結果、細胞増殖量の増加とともにパクリタキセル生産性の向上が観察された(S.YAMAMOTOら、 Solvent Extr. Res. Dev., Jpn., 28(1), 109-114, 2021に掲載)。イオン液体の適度な交換によってパクリタキセルの生産量を増加させることに成功し、専門誌へ掲載された(S.YAMAMOTOら、Solvent Extr. Res. Dev., Jpn., 29(2), 2022)。さらに、パクリタキセルの前駆体を含むタキサン類の生産についても同様な実験を行い、イオン液体の適度な交換を行うことによってタキサン類の生産性の向上に成功し、専門誌への掲載も決定した(S.YAMAMOTOら、Solvent Extr. Res. Dev., Jpn., 30, 169-175, 2023)。 イオン液体に代わる媒体として疎水性固体を利用する二相培養系も行ったところ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリプロピレンがパクリタキセルを効率的に吸着する知見を得た。これらの疎水性固体を細胞に利用した結果、ポリプロピレンがパクリタキセルの生産性を向上させることができた。最も疎水的なPTFEはパクリタキセルの吸着に優れるが、振盪培養においてPTFEが細胞を破砕し、パクリタキセル生産性が低いことが観察された。汎用的に利用される安価なポリプロピレンがパクリタキセル生産性を向上する疎水性固体であることを見出した。
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