数百原子規模の対象系のダイナミックスを電子密度汎関数理論(DFT)で扱う第一原理分子動力学(DFT-MD)シミュレーションに関して,その取り扱い可能な時間スケールを桁違いに長くする新手法を開発した.本手法では,対象系の中から反応中心となる数個の原子からなる群を選び,その反応中心原子間でのそれぞれの電子移動プロセスに対して,周囲の原子も加えた系を使ってバリアエネルギーを計算する.それぞれの反応中心原子群の空間構造を特徴づける第一indexは,化学ボンドのグラフネットワーク行列を用いて,その数回の繰り返し転送操作を経て得る.歪などの外部環境によって,同じ f のプロセス同士のバリアエネルギーでも変化するため,反応中心原子群内の化学ボンド長を第二indexに選び,Kriging法(=ガウシアンプロセス)を用いてバリアエネルギーの変化を予測する.リストした多数の化学反応プロセスについてバリアエネルギーを計算し,そこから人為的にプロセスを進めるべき1つプロセスを統計力学に従って選択する. 本手法の適用例の1つとして,エチレンカーボネート(EC)分子群に電子数が中性から少ない状態から始めて少しずつ電子を加えるシミュレーションを,800原子程度の規模で実施した.このシミュレーションの結果,EC分子が分解して生じた数個の炭酸イオン群と数個のLiイオンとが連結した化合物の塊がEC液体中に生じた.これは実験で固体電界質皮膜に観察される構造と矛盾しない.また,本シミュレーションの適切な初期状態を用意するため,対象系のさまざまな部位の湿潤環境でのプロトン化あるいは脱プロトン化を熱力学に従って定める手法を開発した.
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