研究課題/領域番号 |
20K05249
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
市橋 正彦 豊田工業大学, 工学部, 客員教授 (90282722)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クラスター複合体 / コバルトクラスター / ヘリウムクラスター / 二酸化炭素 / 電子励起状態 / 赤外スペクトル / クラスター・クラスター衝突 |
研究実績の概要 |
金属(化合物)クラスターを構成ユニットとした複合体を、テーラーメイドな触媒へと発展させていくことを目指して、その基盤となる研究を展開している。令和2年度は特に以下の4点に重点的に取り組んだ。 (1)クラスター複合体生成のための金属クラスター源の開発 (2)構成ユニットであるクラスターの反応探索およびその反応機構の解明 (3)クラスター複合体の生成機構の解明 (4)複合体環境を利用した分光研究 (1)ではマグネトロンスパッター法を用いた金属クラスター源を試作し、これによって生成した金属クラスターイオンのサイズ分布と生成量を質量分析法により測定した。そして、クラスター生成条件(凝縮室の圧力、放電電圧等)を調整することによって、クラスターイオンが比較的多く生成する条件を見出した。(2)では二酸化炭素の活性化に関してコバルトクラスターとバナジウムクラスターとの比較を行なった。コバルトクラスターでは二酸化炭素は酸素原子と一酸化炭素に解離して吸着する。一方、バナジウムクラスターはより活性が高く、二酸化炭素は原子状にまで解離して吸着することが示唆された。(3)ではヘリウムクラスターとコバルトクラスターイオンの衝突を典型例として、クラスター複合体の生成機構を丹念に調べた。その結果、各クラスターを構成する原子数に応じて生成効率が顕著に変化する様子を観測することに成功した。(4)ではヘリウムクラスター中のコバルトクラスターイオンの光解離分光を行ない、この手法によって赤外領域にある、コバルトクラスターの低エネルギーの電子励起状態を感度よく検出できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請段階で我々は以下の目標を掲げて研究を推し進めることを目論んだ。 (A)反応分子(二酸化炭素、水素)の選択的活性化に優れたクラスターの探索と反応機構の解明 (B)クラスター複合体生成法の確立と複合体の構造解明 (C)クラスター複合体上での二酸化炭素の水素化反応の観測 これらの研究は相互に関連しあっているが、「研究実績の概要」に挙げた内容をこれらの目標に照らし合わせて分類すると(A)の分野には「(2)構成ユニットであるクラスターの反応探索およびその反応機構の解明」と「(4)複合体環境を利用した分光研究」が属する。また(B)の分野に関しては「(1)クラスター複合体生成のための金属クラスター源の開発」と「(3)クラスター複合体の生成機構の解明」が当てはまることになる。今年度は初年度であり、研究計画の基盤をなす(A)(B)に果敢に取り組んできたことを如実に表している結果と言えよう。また、研究の足元を支えるところでは、クラスターイオンの強度を高めるためのイオン光学系の改良や光解離実験に用いるレーザー光学系の改良など、実験装置の性能向上も進めており、次年度の飛躍のための準備も着々と進めている。このような状況から考えると、我々の研究は計画に沿って着実に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
(A)に関しては純粋な金属クラスターから金属酸化物や窒化物、炭化物のクラスターへと範囲を広げて二酸化炭素との反応研究を進めていく。またさらには、水素の共存下でもこれらのクラスターが二酸化炭素に対する反応性を失わないことが重要となる。そのため、水素の分圧と二酸化炭素吸着能との関係を測定し、水素による被毒の影響を検証する。水素の選択的活性化に関しても同様に進めていく。 (B)(C)に関してはヘリウムクラスターと金属クラスターとの複合体生成においてヘリウムクラスター生成源を、現在開発中の金属クラスター生成源に置き換えることによって、金属クラスターどうしの衝突を行ない、クラスター複合体を生成する。また、複合体の生成効率を高めるために、ヘリウムクラスター中に2つの金属クラスターを挿入し、これらを会合させることも計画している。このクラスター複合体内中の元素の混合状態の解明は、光解離分光法によって行なう。元素の混合状態によって複合体の電子構造は大きく異なるため、測定される複合体のスペクトルは敏感に変化する。この実験結果を理論的解析と組み合わせることによって混合状態を明らかにする。また、各クラスターの構成原子数によって、複合体の反応性が大きく変化すると考えられるが、実際に、クラスター複合体に分子を吸着し、吸着分子の反応研究からこれを検証する。クラスター複合体の特徴は、各クラスターが複合体を構成する要素となっており、活性点としてはたらくことである。例えば、二酸化炭素を選択的に活性化するクラスターと、水素を活性化するクラスターを組み合わせた複合体用いることによって、これらのクラスターどうしの界面で、メタノールの生成が効率よく進行することが期待される。また、将来的には各クラスター要素の選び方に応じて、さまざまな2分子反応への展開が可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 各物品を購入する際に、納入業者との交渉により値引きをしてもらうことができた。特に、ある計測器の購入では特別キャンペーン期間ということで標準価格から20万円以上値引いてもらうことができた。そのためにこのような次年度使用額が生じた。 (使用計画) 次年度交付額と合わせて物品費などに充てる予定である。
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