お椀状の炭化水素分子であるコラニュレンは分子面鉛直方向に静電的な分極を有する。このため、コラニュレン分子の原子層状物質表面への吸着は原子層物質の電子構造、とくにフェルミレベルの、分極に応じたシフトを誘起する。ここでは、コラニュレンが層間に挿入された2層グラフェンに着目し、当該複合系において、上下のグラフェンに、それぞれ電子とホールがドープされることを明らかにした。また、上向き配向の分子が挿入された領域と、下向き配向の分子が挿入された領域からなるヘテロ複合系を構築することで、分子配向の入れ替わる境界において、電子ドープされたグラフェンとホールドープされたグラフェンの境界を構築することが可能であることを明らかにした。この結果は、コラニュレン等のお椀状炭化水素分子を半導体原子層物質に吸着させることで半導体の伝導特性の制御が可能である。 次に、ダイヤモンドナノワイヤの外部電界に対する応答特性の表面終端とワイヤ形状依存性の解明を行った。計算の結果、ダイヤモンドナノワイヤの外部電界応答は、表面修飾、ワイヤ形状に強く依存することが明らかになった。清浄表面を有するナノワイヤは、その表面で外部電界を完全に遮蔽するのに対して、水素終端されたナノワイヤでは、ナノワイヤ内に有限の電界が分布し、遮蔽が完全でないことが明らかになった。これは、ナノワイヤの電子構造に起因する現象であり、金属的な電子構造が、清浄表面での電界遮蔽の起源である。また、ナノワイヤの鋭角なコーナにおいて、外部電界の強い集中が生じ、ナノスケール構造物に対しても古典電磁気学と同様の現象が観測されることを明らかにした。すなわち、ダイヤモンドナノワイヤの電界効果半導体デバイス応用においては、ワイヤ表面の処理と形状制御が重要であることを予言した。
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