研究課題/領域番号 |
20K05254
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
玉置 亮 東京大学, 先端科学技術研究センター, 助教 (10767742)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中間バンド型太陽電池 / 量子ドット太陽電池 / 絶対値発光分光 / 光閉じ込め構造 |
研究実績の概要 |
多重積層InAs/GaAs量子ドット太陽電池において、室温集光下における絶対値発光(PL)スペクトルの電圧バイアス依存性を計測した。電圧バイアス印可時における擬フェルミレベル分裂(内部電圧に相当)を一般化プランク則により定量評価したところ、ホスト材料のGaAsバンド端については印可バイアス電圧によらずほぼ一定の値を示した。一方でInAs量子ドット基底状態では、バイアス電圧を小さくする(短絡状態に近づく)につれ、擬フェルミレベル分裂の非線形増大が起きる励起密度の閾値が増大した。この結果は、中間バンド-伝導帯間の非輻射緩和過程により伝導帯から量子ドットに捕獲される光キャリアと、量子ドットから伝導帯へと取り出される光電流との間の相反関係を表している。 量子ナノ構造太陽電池において近赤外域の光吸収率を増大させるために、Fabry-Perot共振器による共鳴状態を転送行列法を用いて計算した。InAs量子ドット基底状態においてFabry-Perot共鳴が生じる構造設計を行い、10倍以上の光電場増強が得られる見積もりを得た。分子線エピタキシー法を用いて、数値計算で得られた最適構造に対応する多重積層InAs/GaAs量子ドット構造を作製した。GaAs基板除去前後におけるPL発光スペクトルの変化を観測したところ、基板除去後の薄膜試料においてFabry-Perot共鳴による明瞭なピーク構造を確認した。ピーク波長は転送行列法で求めた共鳴波長と一致しており、光閉じ込め構造による光電場増強を実証した。一方で、増大率は数値計算で見積もられた値よりも小さく、今後のプロセス最適化と裏面反射ミラーの高品質化による向上が見込まれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
絶対値発光分光を顕微分光系へ拡張し、量子ナノ構造太陽電池におけるミクロな光キャリアダイナミクスの評価・解析について、時空間局所分光を行うためのベースとなる実験系の構築を完了した。光マネジメント構造については、フェーズ1での基板剥離による薄膜セル構造におけるFabry-Perot共振器型の1次元方向の光閉じ込め構造についての検討を行い、量子ドット基底状態の共鳴波長における光電場増強を実証した。ナノ構造バンドエンジニアリングによる電子状態制御については、年度始めの緊急事態宣言の発出に伴い、分子線エピタキシー(MBE)装置などのクリーンルームでのデバイス作製実験を行うことができず、現在デバイス構造の初期検討を行っているところである。全体としては、中間バンド型太陽電池における「出力電圧の維持」の要件達成と次世代高効率化の原理実証に向けて、研究計画に沿っておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
絶対値発光分光を時間・空間分解分光に拡張した時空間局所分光を行うために、顕微分光系に超短パルスレーザーを組み合わせた光学系の構築を行うとともに、実空間シミュレーション解析についても過渡応答への拡張を検討する。光マネジメント構造については、フェーズ2でのGaAs基板の異方性エッチングを利用した2次元回折格子構造、フェーズ3での高次構造による光散乱・回折構造について系統的な検討を進める。ナノ構造バンドエンジニアリングについては、シミュレーションによる設計に基づいたデバイス実装を引き続き進めることで、出力電圧の向上に資する設計最適化を行う。時空間局所分光による量子ナノ構造太陽電池における擬フェルミレベル分裂の直接計測と、光マネジメント構造とナノ構造バンドエンジニアリングの最適設計とデバイス実装により、「電圧維持」の要件達成と中間バンド型動作の原理実証に向けたデバイス設計指針を見出すことで、革新的原理に基づく次世代デバイスの特性向上に資する知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画において参加を予定していた学会が、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため中止あるいはオンライン開催となり、予定していた旅費の使用が無かったため、次年度以降に開催される国内及び国際学会へ参加するための旅費として使用するように計画を変更した。
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