本研究の目的はナノカーボン,特に有限の長さのカーボンナノチューブの結晶構造とトポロジカルな性質に起因するフォノンとの関係を明らかにすることである。2022年度は電子の2pz軌道と原子の面直変位が同じ変換則に従うことに概ね起因することによるπ電子と面直フォノンの対応関係,面直フォノンにおけるカイラリティに依存したバンドギャップ,カーボンナノチューブ端に出現する副格子偏極した面直振動モード,曲率による微小ギャップなどについて考察を行った。また,ばねモデルを用いた数値計算から有限の長さのカーボンナノチューブの端に局在して現れるトポロジカルな性質に由来する格子振動と有限の長さのカーボンナノチューブの直径,カイラリティ,長さといった結晶構造との関係について解析を行い,そのために必要な数値計算プログラムの改良と開発も進めた。本研究を通じて,カーボンナノチューブのトポロジカルな性質に起因するフォノンの性質を明らかにするための理論の展開につながり,また,数値計算による有限の長さのカーボンナノチューブの端に局在して現れるトポロジカルな性質に由来する格子振動の振動モードとそのエネルギーを,直径,カイラリティ,長さといった結晶構造との関係の系統的な解析の試みもトポロジカルな性質に由来するフォノンの性質についての理解の進展につながった。本研究により,フォノンのトポロジカルな性質に関して理解が進むだけではなく,フォノンが関与する熱伝導,電気伝導,また光物性などにおいて新しい知見を見出すことにも貢献できると期待される。
|