研究課題/領域番号 |
20K05261
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
久保 若奈 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10455339)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズモン / メタマテリアル / 熱電変換 / 局所熱 / 熱輻射 |
研究実績の概要 |
本研究は,申請者が発見した新しい光熱電変換機構,「熱を介して,光エネルギーを電気に変換する全く新しい光電変換現象」の駆動機構の解明と,その機構に基づく高効率光電変換デバイスの実現を目的としている.このプラズモニック光熱電変換機構の基本的な駆動原理についてはこれまでの研究で明らかにしたため,本年度は,駆動現象のより詳細な知見を得るために,本機構の光検出器への展開を図り,検討を行った. 光をほぼ100%閉じ込めることができる完全吸収メタマテリアル構造をプラズモニック光熱電変換素子の受光部として導入し,光照射を行って光検出器として機能するか,またその応答性はどの程度であるか,検証した.完全吸収メタマテリアル構造は総厚み300 nm程度でありながら,その厚みよりも長い波長の光をほぼ100%閉じ込めることができる,金属ナノロッド構造/誘電体薄膜/金属薄膜の積層構造で形成される構造である.比較構造体として金属ナノロッド構造のみの素子を形成し,それぞれの光応答性を確認した.その結果,金属ナノロッド構造体を含むプラズモニック光熱電変換素子の吸収率は30%であるのに対し,完全吸収メタマテリアル構造を含むプラズモニック光熱伝変換素子の吸収率は96%であった.また,光電変換効率も金属ナノロッド構造素子は0.001%, 完全吸収メタマテリアル構造素子は0.003%と,光吸収特性と光電変換効率が連動することを確認した.つまり,受光部となるプラズモニック構造体の光吸収とプラズモン局所熱発生により熱電変換薄膜内に温度勾配が生じ電流が発生する,従来推測したプラズモニック光熱電変換機構を支持する結果と言える. 本成果は国際会議 SPIE,および国際シンポジウム”The Casimir Effect” の招待講演で発表し, また国際科学雑誌 Applied Physics Express誌に論文を掲載した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プラズモニック光熱電変換機構の理解をより深めるため,完全吸収メタマテリアル構造を搭載したプラズモニック光熱伝変換素子を作製し,光照射を行って光検出器として機能するか,またその応答性はどの程度であるか,検証した.完全吸収メタマテリアル構造は銀ナノロッド構造/誘電体薄膜/銀薄膜の積層構造で形成される構造である.総厚み300 nm程度でありながら,その厚みよりも長い波長の光をほぼ100%閉じ込めることができる.この完全吸収メタマテリアル構造の誘電体薄膜を,有機熱電材料であるpoly(3,4-ethylenedioxythiophene)-poly(styrenesulfonate) (PEDOT:PSS)薄膜にすることで,プラズモニック光熱電変換デバイスに搭載した. 比較構造体として銀ナノロッド構造単体のみの素子を形成し,それぞれの光応答性を確認した.その結果,銀ナノロッド構造体を含むプラズモニック光熱電変換素子の吸収率は30%であるのに対し,完全吸収メタマテリアル構造を含むプラズモニック光熱伝変換素子の吸収率は96%であった.それに準じて光電変換特性も銀ナノロッド構造素子は0.001%, 完全吸収メタマテリアル構造素子は0.003%と,光吸収特性と光電変換効率が連動することを確認した. 加えて,電磁界計算と伝熱シミュレーションにより,完全吸収メタマテリアル構造で発生する局所熱量の算出を行った.その結果,比較構造体として用いた銀ナノロッド構造では8.8 Kの熱が,一方完全吸収メタマテリアル構造では22.8 Kの局所熱が発生していることが判明した. 以上の通り,当初の想定よりも多くの結果が得られていることから,研究が計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
プラズモニック光熱電変換デバイスの高効率化の実現には,二つのアプローチで取り組むことが有効である.一つは受光部の光吸収効率を向上させるアプローチである.実際に,従来利用していた,光吸収特性の低い銀ナノロッド構造の代替構造として,今年度は完全吸収メタマテリアルを用い,比較構造体よりも高い光電変換効率が得られた.もう一つのアプローチは高い熱電特性を有する熱電変換材料を用いることである.今年度利用したPEDOT:PSS膜のゼーベック係数は10 μV/Kと極めて低い.これを例えば200度以下の低温領域で高い熱電特性を示すビスマステルル材料に変更することを考える.ビスマステルル材料のゼーベック係数の最高値は230 μV/Kである.そのビスマステルルを熱電変換材料に用いると,完全吸収メタマテリアルデバイスの光応答性は17.5 mA/Wと試算され,市販のSi光検出器の応答性に迫る光応答性となる.この試算に基づき,来年度はより高い熱電性能を示すビスマステルル材料の起用を計画し,今回開発した光検出器のさらなる応答性の向上を図る. さらに,光検出器にフォノンエンジニアリングの要素を取り入れ,熱電変換素子部の熱伝導率の低下を図ることで,プラズモニック光熱電光検出器のさらなる高効率化を目指す.具体的には,プラズモニック光熱電変換素子全面にナノホールアレイ構造を導入し,素子材料の熱伝導率を低下させることにより熱電性能を向上し,高感度光検出を実現する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症対策として一時期学生の入構が禁止され,研究の進捗が滞ったため当初の計画通りの予算執行にならなかった。研究は当初の計画以上の進展があり、必要物品が追加で生じたため、繰り越した予算は次年度の実験物品と装置購入に充当する。
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