研究課題/領域番号 |
20K05264
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
樋口 真弘 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50357836)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DDS / ターゲット認識能 / 環境認識能 / ペプチド脂質 / ベシクル / 炭酸カルシウム / マグネタイト / ミネラリゼーション |
研究実績の概要 |
癌の化学療法のための薬物送達システムとして、ターゲット認識能及び環境認識能を併せ持つナノカプセルの構築を目的とする。同ナノカプセルの条件として、環境認識能では脂質ベシクル表面が酸性条件下で溶解する炭酸カルシウムで被覆されること、また、その表面にターゲット認識能として種々の受容器を簡便に導入可能であることとした。 本年度は、昨年度構築法を確立した炭酸カルシウム被覆ベシクルの詳細な構造解析を行うと共に、炭酸カルシウム殻の膜厚制御に関しても検討した。得られた炭酸カルシウム被覆ベシクルに親水性及び疎水性物質を薬物モデルとして内包させて、種々のpH条件下での薬物放出試験を行い、その放出機構の解明を目的とした。とくに炭酸カルシウム殻の溶解と、親水性及あるいは疎水性薬物の放出挙動との相関に関し詳細に検討した。加えて、実際の使用を想定した薬物担持ナノカプセルの保存条件として、凍結乾燥させた炭酸カルシウム被覆ベシクルを用いた薬物放出能の検討を行った。ターゲット認識能の付与に関しては、モデル系を用いて認識能の評価を行った。具体的には、炭酸カルシウム被覆ベシクルに埋め込まれた、ペプチド脂質の親水部であるポリエチレングリコール/ペプチドブロック共重合体末端のチオール基にビオチンを導入した。この炭酸カルシウム被覆ベシクルの分散液にアビジンを添加することで、ベシクルの凝集の有無、すなわちベシクル上のビオチンと溶液中のアビジン間の結合形成で、その認識能の評価を行った。 この系とは別に、新たに、磁気誘導による薬物送達が可能なDDS担体の構築を試みた。この系では、先の炭酸カルシウム殻の代わりに、磁性体であるマグネタイト殻を、同様にミネラリゼーションにより構築した。得られたマグネタイト被覆ベシクルの構造解析を行った。また、抗癌剤であるフルオロウラシルを内包した同被覆ベシクルを調製し、その放出挙動を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
被覆ベシクルが内部に空孔を持つことを3D-TEMにより直接観察した。反応時間により、その膜厚を制御できると共に、その直径は200 nm以下のEPR効果発現可能な粒子径であった。得られた被覆ベシクルに、ピレンとローダミン6Gを封入させ、種々のpH条件下での薬物放出試験を行った。ピレンの放出は、細胞モデルのベシクルへの移行、ローダミン6Gはベシクル外水相への湧出より評価した。この際、炭酸カルシウム殻の溶解を、溶液中に生成されたCaイオン濃度の増加により評価した。同殻は弱酸性のpH 6.0において優位な溶解が認められた。この溶解に伴い、いずれの薬剤も、pH 6.0においてその放出量の増加が認められ、癌組織近傍への薬物送達の有効性が示された。しかしながら、二つの薬剤の放出挙動には大きな違いが見られた。疎水性のピレンは脂質二重膜に、親水性のローダミン6Gはベシクル内水相に存在する。疎水性ピレンは、炭酸カルシウム殻の溶解の初期から、大きな放出が見られたが、ローダミン6Gでは、一定期間の後に大きな放出が観察された。これは炭酸カルシウム殻の一部溶解に伴い表れたベシクル表面に細胞モデルベシクルが接触することで、ピレンの移行が起こるが、内水相に封入されたローダミン6Gはベシクルが崩壊するまで放出されないためである。 ターゲット認識能の付与に関しては、被覆ベシクルに埋め込まれたペプチド脂質末端にビオチンを導入し、アビジンの認識能を、凝集より評価した。アビジン添加により被覆ベシクル間に架橋が形成され、沈殿が確認された。ビオチンの導入は、ペプチド脂質末端チオール基とマレイミド化ビオチンとの反応により行っており、簡便に被覆ベシクルに種々の認識部位を導入できる可能性が示された。新たに、磁気誘導による薬物送達が可能なDDS担体の構築を試みた。マグネタイト被覆ベシクルからの薬物放出挙動を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、EPR効果を発現可能で、癌細胞近傍の弱酸性条件下で崩壊・薬物放出可能なナノカプセル構築目的している。最終年度である令和4年度では、これまでの知見をもとに、実際の使用条件を念頭に置いて、予め調製した、凍結乾燥させた薬剤内包ナノカプセルを、目的に応じて、特定の癌細胞に対応可能なターゲット認識能を有する汎用性のある薬物送達システムを構築する。初めに炭酸カルシウム被覆ベシクルに実際の抗癌剤である5-フルオロウラシル内包させて、令和3年度より広範囲で細かいpH条件下での薬物放出試験を行う。得られた知見を基に、体組織のモデルとしてゲルを用い、同ゲルに結合させたアビジンとナノカプセル表面に導入したビオチンとの相互作用を利用したターゲッティングシステムを構築する。ゲルには癌組織、正常組織を模倣するために、酸性ゲル、中性ゲルを用い、比較のために、塩基性ゲルも用いる。ゲルにはアガロースゲルを基本とし、酸性ゲルでは、ポリアクリル酸を、塩基性ゲルでは、ポリアリルアミンを添加する。また、ゲルの濃度を調整し、EPR効果を検証する。 ターゲット認識能付与に関し、上記ビオチン固定化炭酸カルシウム被覆ベシクルとは別に、令和3年度に構築した、磁気誘導による薬物送達が可能なDDS担体による、組織模倣ゲルへの誘導を試みる。これに先立ち、令和3年度予備的に検討した、マグネタイト被覆ベシクルのマグネタイト殻の厚さと薬物保持能の相関を詳細に検討する。誘導磁場にはネオジウム磁石などの永久磁場や、電磁場を用いる。さらには、磁場印加による発熱を利用した、温熱療法用の薬剤カプセルへの応用に関しても検討する。
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