研究課題/領域番号 |
20K05266
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
田嶋 智之 岡山大学, 環境生命科学学域, 講師 (90467275)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | CO2フリー / 光水素製造 / 半導体性カーボンナノチューブ / 半導体性カーボンナノチューブ / 光誘起電子移動 / 電子抽出剤 |
研究実績の概要 |
光電変換を可能とするヘテロ接合界面は、(a) s-SWCNT、(b) 内包色素分子(s-SWCNTの内部空間)、および(c)電子抽出層(s-SWCNTの外側)の材料により構成される。この材料の組み合わせ (a~c) を種々変更することで、様々なナノ同軸ヘテロ接合界面を構築し、その光電変換機能を調べることで、様々なヘリシティーのs-SWCNTと他材料との電子移動を調べることができる。これまでに、電子アクセプター性の高いC60をコアにもつデンドリマーを用いたSWCNTsの物理修飾により、SWCNT/C60ヘテロ接合界面を構築することで、光触媒反応系の構築に成功している。しかし、高次エキシトンの利用に相当するSWCNTのE22光励起を利用した際の水素生成反応における量子収率は0.70%と非常に低く、またSWCNTsのヘリシティーにあわせ電子抽出剤のLUMO準位を調節する必要があった。そこで、SWCNTsの高次エキシトンからの直接電子抽出が可能な電子抽出剤として電子抽出剤として、バンド構造をもつTiO2を用いることを考え、SWCNT/TiO2/Ptハイブリッド光触媒の開発を行った。 SWCNT/dendrimer分散溶液にアナターゼ型TiO2 (ST-21)/Ptを加え、静電相互作用での複合化によりSWCNT/TiO2/Ptハイブリッドを合成をした。犠牲ドナーとして1-ベンジル-1,4-ジヒドロニコチンアミドの存在下、単色光を用いたSWCNTのヘリシティー選択的な光励起による光水素生成反応について検討した。その結果、(8,3)SWCNTのE22光励起 (680 nm)におけるEQYは43%にまで達した。さらに(6,5)CNTや(7,5)CNT光励起による水素生成も確認し、これまで難しかったSWCNT高次エキシトンからの直接電子抽出の分子設計の指針を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度にあげた研究の推進方策計画にあわせ、電子抽出剤としてTiO2を用いた光電変換を可能とするヘテロ接合界面の構築に成功した。本成果は、これまで難しかったSWCNT高次エキシトンからの直接電子抽出の分子設計の指針を見出すことができたとだけではなく、学術的に様々なヘリシティーのSWCNTsと他材料との界面における電子移動を解明するための分子技術として期待がもてる。また、現在、SWCNTの光電機能を最も効率よく扱うことができているのは太陽電池デバイスであり、溶液分散系デバイスとしてのSWCNT光触媒の報告例はまだまだ少ない。分散系でのSWCNT複合体への無機半導体ナノ材料の導入、光誘起電子移動の成功は、SWCNTsの光捕集能力のエンハンス材料としての様々な内包色素を使用したり、 今まで光電機能を調査することのできなかった太いチューブが利用可能になる可能性があるなど、学術的・基礎科学的な知見が一層広がる可能性があり、薄膜デバイスの太陽光変換効率を超えることも十分に期待される。
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今後の研究の推進方策 |
1 SWCNT/TiO2界面における光誘起電子移動 ・これまで難しかったSWCNT高次エキシトンからの直接電子抽出の分子設計の礎を見出すことができた。SWCNTのヘリシティーの違いによるエネルギー準位と電子抽出剤に用いているTiO2の価電子帯とのバンドオフセット、ならびに光水素生成効率との相関を詳細に調べ、SWCNTのE22光励起からの電子移動に関し、様々な学術的・基礎科学的に重要な知見を得る。 2 貴金属を用いない助触媒の利用 生体触媒であるヒドロゲナーゼやヒドロゲナーゼ模倣ポリマーの利用 光還元力を高効率で利用するためには、多段階の電子移動過程を経るよりも、助触媒を直接担持した系の方が望ましい。現在は白金(II)錯体やRu錯体を助触媒として担持し研究を行っているが、いすれも量子収率は0.015と低い(Sci. Rep. 2017, 7, 43445)。生体触媒であるヒドロゲナーゼは酵素内に電子受容体として[4Fe-4S]クラスターをもち、活性中心の金属錯体への超高速電子移動を実現していることから、本提案で、ナノ材料と生体分子とのナノバイオハイブリッドの創成に関する学術的に基礎的かつ重要な知見を得ることにもチャレンジしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症による影響が大きい。オンラインによる研究打ち合わせや、オンラインでのシンポジウムが多くなり、予定していた旅費、人件費を使用しなくなってしまった。未使用額については2022年度の物品費および旅費に充て、研究を効果的に推進することとしたい。
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