研究課題/領域番号 |
20K05267
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
鍋谷 悠 宮崎大学, 工学部, 准教授 (50457826)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナノスクロール / ナノシート / アゾベンゼン / 光運動 / チタン酸 / チタンニオブ酸 |
研究実績の概要 |
チタンニオブ酸ナノシートは従来のニオブ酸と同程度の表面電荷密度を有するが、表面凹凸構造が異なる。この表面構造により形成される複合体のナノ構造とナノシートスライド運動等の光運動との相関解明がナノスクロール光伸縮運動のメカニズム解明に重要である。令和3年度は、新たな光応答性ナノスクロールの作製と光運動機能の機能発現メカニズム解明を目的とし、チタンニオブ酸複合体について原子間力顕微鏡観察や画像観察による光運動機能の測定とX線回折や分光学的手法によるナノ構造の測定から運動機能とナノ構造の相関関係を解析した。 具体的には、チタンニオブ酸カリウムを酸処理後にプロピルアミンを用いてナノシート化した。そのナノシートを基板上に成膜して光応答を示す多フッ素化アルキルアゾベンゼン誘導体の水溶液に浸漬することで、アゾベンゼン/チタンニオブ酸複合体の作製に成功した。ナノ構造解析から、表面電荷密度がニオブ酸と同程度であるにもかかわらず、ニオブ酸への吸着量に対して半分程度(吸着占有面積:53平方オングストローム)であることを見出し、また層間で分子が配向しながら適度な空隙をもつナノ構造を形成することを明らかにした。一方、光反応によるナノシートスライド運動を観察すると、チタンニオブ酸においてもナノシートスライド運動が誘起されると共に、巨視的な屈曲運動も可逆に誘起されることを明らかにした。ニオブ酸複合体における光運動誘起も層間分子の微細構造化により分子の配向と適度な空隙構造が形成されていたことから、ナノスクロールの光伸縮を誘起するナノシートスライド運動には層間分子の配向と空隙構造をもつ柔軟な構造形成が必要であると考えられる。以上のことから、ナノシート複合体の光運動機能発現に重要な分子レベルのナノ構造が明らかになったことは非常に重要であり、光ナノアクチュエーター材料における光運動機能の制御が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の計画としては、初年度に作製した表面構造の異なるチタンニオブ酸ナノシートと多フッ素化アルキルアゾベンゼン誘導体の複合体を作製し、その光運動機能について原子間力顕微鏡による解析を中心に進める予定であった。チタンニオブ酸ナノスクロールの作製は、現時点で達成されておらず作製条件の探索が必要であるが、メカニズム解明のためのナノ構造解析や光運動解析ができており、ニオブ酸系の複合体との比較から構造的視点でのナノスクロール光伸縮の基礎となるナノシートスライド運動のメカニズムを明らかにできた。チタン酸ナノシートについても同様の形で研究が進められている。また、初年度の計画修正に伴い、異なるアルキル鎖長をもつアゾベンゼン誘導体を用いたナノスクロール作製を並行して進めているが、炭素数4のアルキル鎖をもつアゾベンゼン誘導体に加えて炭素数2および8のアゾベンゼン誘導体についてもナノスクロール作製ができることを見出している。初年度には、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策による実験活動の遅延が生じていたが、令和3年度に予定していたチタンニオブ酸に関する検討に加えて初年度の遅れをある程度取り戻すことができたため、全体としての進捗状況はおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、チタンニオブ酸ナノシートについてはナノ構造および光運動の解析が達成できているので、表面電荷密度の異なるチタン酸ナノシートの複合体に関するナノ構造および光運動の解析を進め、表面電荷密度の効果を検討する。令和3年度の成果を踏まえてナノシートの表面凹凸構造と表面電荷密度の両面からナノシートのスライド運動およびナノスクロールの光伸縮運動のメカニズムを明らかにする。 また、アゾベンゼン誘導体のアルキル鎖部位の構造と物性がナノスクロールの光伸縮運動に与える影響を明らかにするために、異なるアルキル鎖長をもつアゾベンゼン誘導体を用いたナノスクロールおよびナノシート積層体を作製し、原子間力顕微鏡を用いて光反応による形態変化解析を順次進めることを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
チタン酸ナノスクロールおよびチタンニオブ酸ナノスクロールの作製に用いる試薬や実験器具の経費を計上していたが、作製のための有機分子合成のスケジュールを次年度へ修正したため、その合成のための経費が一部、次年度使用額として生じた。生じた次年度使用額については、修正した計画通りにナノスクロール作製のための有機分子合成に使用する予定である。
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