本研究では、大気圧化学気相成長(CVD)装置を立ち上げ、メタンガスを原料として用いて、ニッケル基板および銅基板上に多層グラフェンをCVD成長することに成功した。また、酸化膜付きシリコン基板上にあらかじめパターニングした銅薄膜を作製することにより、多層グラフェンを目的の位置に簡便に直接成長させる手法を開発した。さらに、陽極に多層グラフェンを用いた色素増感太陽電池を試作し、多層グラフェンを色素増感太陽電池の陽極として使用できることを示した。しかし、変換効率が低いことから、グラフェンをペロブスカイト太陽電池に用いるには改善が必要であり、すぐには使用できないことがわかった。 そこで最終年度は、実用性を考え、グラフェンではなく、カーボンペーストを印刷したカーボン電極をペロブスカイト太陽電池の陽極として採用することに方針を変更した。昨年度までに確立した大気下での塗布プロセスによる有機無機ペロブスカイト結晶(CH3NH3PbI3)作製技術を用いて、カーボン電極を陽極とするペロブスカイト太陽電池の作製に取り組んだ。カーボン電極を上部陽極として用い、大気下で変換効率が最大7.4%のペロブスカイト太陽電池を作製することに成功した。また、ペロブスカイト太陽電池の大気下における性能および構造の経時変化を測定し、劣化メカニズムを調べた。大気中で長期間経過すると太陽電池内部のペロブスカイトが分解されヨウ化鉛およびペロブスカイト水和物が形成されることをX線回折により、明らかにした。さらに、ヨウ化鉛およびペロブスカイト水和物の形成と太陽電池性能低下との間に相関があることがわかり、耐久性向上に向けた知見が得られた。
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