研究課題/領域番号 |
20K05269
|
研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
宇和田 貴之 城西大学, 理学部, 准教授 (30455448)
|
研究分担者 |
鍋谷 悠 宮崎大学, 工学部, 准教授 (50457826)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | タンパク質結晶 / 多孔質材料 / 分光イメージング / 固体フォトンアップコンバージョン / 表面増強ラマン散乱 |
研究実績の概要 |
タンパク質結晶内部に三次元状に広がる溶媒チャンネルはナノ細孔構造を有しており、かつその細孔は表面のタンパク質に由来するキラル空間であることから、タンパク質結晶は新規かつ高機能な多孔質材料であるといえる。我々はこれまでこのタンパク質結晶細孔への分子導入をin situ観察で明らかにし、その機能と有用性を実証してきた。本研究ではこれを発展させ、結晶細孔に多様な機能性分子を導入し配列させること、および内部で化学反応を起こし主に金ナノ構造体を形成する、つまりタンパク質結晶をテンプレートとすることで初めて得られる誘導放出や表面増強ラマン散乱など新たな光学特性を発現する三次元的複合ナノ構造材料を作り出すことを目的としている。 計画2年目の本年は、昨年度に確立したタンパク質結晶の柔らかく脆い欠点をグルタルアルデヒドによる架橋・固定化により克服した結晶を用い、機能性分子の導入を検討した。まず水溶媒からの2種類の分子同時取り込みによる結晶内蛍光共鳴エネルギー移動の効率的な発生を確認した。これは結晶細孔内に分子がエネルギー移動可能なほど高濃度に取り込まれたことを示唆し、多孔質材料としての優位性を示している。その上で有機溶媒からの2種類の分子同時取り込みを試みた。ネイティブ結晶は有機溶媒に耐えられないが、固定化結晶は耐えられる上にDMSOの場合は結晶内に浸透し可逆的に膨張することを見出した。これを利用し、フォトンアップコンバージョンのドナーとアクセプターとなる2種類の分子をDMSOに溶解し、これからの分子導入を試みた。結晶が膨張した際に分子はドナー・アクセプターともに取り込まれ、結晶内でフォトンアップコンバージョンが発現することをin situで確認した。これは一種の固体フォトンアップコンバージョンとなり、タンパク質結晶の三次元的複合ナノ構造材料としての展開に大きく道が拓けたと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の強固なタンパク質結晶の調製法の確立とレーザー分光顕微鏡システムの整備をもとに本年は有機溶媒からの分子取り込みを実現し、その結果としての固体フォトンアップコンバージョンの発現とそのin situ観測へとたどり着いた。研究全体としてはタンパク質結晶細孔をテンプレートとした三次元組織化複合ナノ構造材料の実現に向けて着実に進展している。 一方で結晶細孔内にレーザー色素分子を高密度に取り込ませることにも成功しているものの、この結晶がレーザー発振を行うかどうかを確認するには至っていない。この確認にはパルスレーザーが必要なため、共同研究による推進が必要である。また、結晶細孔内に金イオンを取り込ませた上で還元させ、三次元金ナノ構造体を構築することにも成功はしているものの、ここに更に分子を取り込ませて表面増強ラマン散乱で取り込ませた分子のラマンシグナルを検出することはできていない。これは細孔内で金ナノ構造体が密に存在しているため、さらに分子を取り込ませる余地がないものと考え、金ナノ構造体と分子取り込みが両立する条件を探索している。固体フォトンアップコンバージョンに関しても実現はしたものの、結晶周辺溶媒をDMSOから水へと変化させると結晶から分子が抜け出てしまうこともあるため、一旦結晶内に取り込まれた分子が二度と抜け出ることのないよう分子にアンカーの働きをする置換基を導入するなどの工夫が更なる高機能化には必要である。 このように全体として研究は進んではいるが個別の達成目標に関しては条件の検討や共同研究の推進を行うべきものが幾つかあり、この点を一つ一つ解決してゆくことが今後の課題となる。
|
今後の研究の推進方策 |
前項で記した、タンパク質結晶への機能性分子の導入に関する1. レーザー色素分子導入によるマイクロ色素レーザーの実現、2. 結晶内フォトンアップコンバージョンの発現、3. 表面増強ラマン散乱プラットフォームの構築、の3つのサブテーマについてはプリミティブな結果は既に得られているため、諸条件を詰めてゆき一刻も早い論文化にこぎつけたい。そのためにも共同研究による推進が必要となる。 また、最終年度のテーマとしてタンパク質結晶のミクロ反応容器としての展開にも取り組む。タンパク質結晶細孔に導入した金イオンを光還元し融合させナノ粒子を形成することは既に行っているが、この際の条件を検討することで粒子の成長を現在の速度を優先させたものからより穏やかな、細孔のキラル空間を鋳型として成長しうる条件を見出しキラル粒子が三次元上に配列したumオーダーのキラルメタマテリアルを得ることを目標とする。形成過程を構築済みのラマン散乱顕微分光システムにより金とタンパク質の硫黄および窒素との結合、つまりAu-S、Au-N結合からモニターする。また、挑戦的なサブテーマとして光ピンセットの分子操作への応用で研究協力者と集光レーザーを用いた結晶細孔への分子の選択的な誘導を試みる。
|