研究課題/領域番号 |
20K05274
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
中村 康一 京都先端科学大学, 工学部, 教授 (20314239)
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研究分担者 |
羽部 哲朗 京都先端科学大学, ナガモリアクチュエータ研究所, 助教 (60737435)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポストグラフェン / 遷移金属ダイカルコゲナイド / 第一原理計算 / 時間依存密度汎関数理論 / 光学物性 |
研究実績の概要 |
本年度は主に下記の1~3について実施した。 1. 【非経験的電子状態計算に基づく光伝導性シミュレーション手法の開発】光伝導性に関する固体物理理論と非経験的電子状態計算を結び付け、光伝導性を定性的・定量的に予測する新しいシミュレーション手法を検討した。とりわけ、時間依存コーン・シャム方程式の近似解から電子密度・電流密度を効果的に見積もる手法について検討し、硫化モリブデンの単層または数層の構造に適用させるためのプログラムコード開発を行った。 2. 【2次元炭化ケイ素物性のひずみ応答シミュレーション】グラフェンと同様の構造をもつ2次元炭化ケイ素の1~3層構造について、諸物性のひずみ応答を非経験的電子状態計算に基づくシミュレーションにより解析した。2次元炭化ケイ素の単層構造においては、伝導帯のM谷間のキャリア電子移動による有意なピエゾ抵抗物性が確認されるとともに、2層構造では伝導帯のK谷とM谷のエネルギー差がきわめて小さいことから、ピエゾ光学物性をもつ可能性があることが示された。研究成果は国際学会で発表した。 3. 【2次元ヨウ化ビスマスの電子励起状態計算に基づく光学物性シミュレーション】時間依存密度汎関数理論に基づく電子励起状態計算手法を導入し、2次元ヨウ化ビスマスの1~3層構造における誘電関数のエネルギースペクトル等、いくつかの光学物性を定性的・定量的に予測するシミュレーションを行った。得られたシミュレーション結果は高い精度で実測値を再現し、ヨウ化ビスマスの単層結晶構造に限りバンド間励起に関連する共鳴ピークの下に励起子が発現することを理論的にも明らかにした。研究成果は学術論文誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
光伝導性シミュレーション手法開発については、ほぼ当初の予定通りに進捗している。また、研究代表者が主宰する研究室に助教が着任して研究分担者として本研究課題に参画を始めたことで、ポストグラフェン材料モデルの電子状態計算と電子物性シミュレーションに関する研究が加速し、とくに時間依存密度汎関数理論による電子励起状態計算について当初の予定より多くの重要な結果が得られた。総合的に、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、以下を進める予定である。 A. 【非経験的電子状態計算に基づく光伝導性シミュレーション手法の開発と実行】今年度に開発した光伝導性シミュレーション手法に改良を重ね、硫化モリブデンの単層または数層の構造に適用させるためのプログラムコードを完成させる。新しいシミュレーション手法による結果を実測値と比較するとともに、複雑な原子レベルの構造を単位格子の形で与えるだけで光伝導性のドープ濃度依存・温度依存を解析するプログラムコードへの拡張をめざす。 B. 【ポストグラフェン材料モデルの電子状態計算と電子物性シミュレーション】今年度に検証した時間依存密度汎関数法等を利用して、さまざまなポストグラフェン材料の電気機械特性、熱電変換特性、光伝導性、トポロジカル絶縁性に関するシミュレーションを行う。電子構造の外部ひずみや膜厚(層数)に対する依存性を周期表の周期や族の変化に応じて系統的に解析することをめざす。 C. 【機械学習によるポストグラフェン材料ヘテロ接合構造の設計と特性予測】ヘテロ接合デバイスのパーツとなる層間相互作用を含む局所構造モデルの第一原理電子状態計算と電子物性シミュレーションを実行し、得られた種々の結果を記述子とした人工ニューラルネットワークによって、ポストグラフェン材料を複数組み合わせた大規模かつ複雑なヘテロ接合デバイスの安定構造やデバイス特性を予測して、ポストグラフェン材料による高性能電子デバイスの開発方針と全く新しいポストグラフェン材料候補を示唆する。
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