研究課題/領域番号 |
20K05275
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
副島 哲朗 近畿大学, 理工学部, 講師 (40512695)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 臭化銀 / 金 / ヤヌス粒子 / ナノ粒子 / 接合材料 |
研究実績の概要 |
本年度では,臭化銀と金との接合材料の創製とその物性に注目をして研究を展開した。その結果,金-臭化銀ヤヌス粒子の詳細な定性分析,形成メカニズムを明らかにするとともに,その特異な光物性について明らかにした。 具体的な実験手法としては,塩化金酸水溶液にポリビニルピロリドンを添加して溶解させ,その後に,硝酸銀と臭化ナトリウム水溶液を添加させ,最後に光照射を行う方法である。得られた粒子はヤヌス状であり,紫外可視吸収スペクトルを測定したところ可視域に2つの吸収帯が存在した。得られた粒子の定性分析に難航したが,X線光電子分光法,透過型電子顕微鏡(TEM)観察とエネルギー分散型X線分光装置を用いてその構造の詳細を分析した。その結果,金ナノ粒子の表面に数原子厚みの銀層が存在していることがわかった。さらに,高分解能TEM観察を行ったところ,金あるいは銀の(111)面から,臭化銀が選択的成長し,金(銀シェル)と臭化銀のヤヌス状粒子であることが明らかとなった。さらに,添加する臭化ナトリウムの量を変化させることによって,接合している臭化銀ナノ粒子のサイズを制御することに成功した。このヤヌス粒子の光物性を明らかにする目的で,有限差分時間領域(FDTD)法を用いて理論計算を行った。その結果,2つの吸収帯のうち,短波長側は金ナノ粒子由来であり,長波長側は接合面による電場増強されたものであることがわかった。ヤヌス粒子だけでなく,金と臭化銀ナノシートの複合体の合成にも成功した。 さらに,次年度以降の臭化銀材料の光触媒材料としての応用と,臭化銀をベースとする複合体(セシウムを含むペロブスカイト構造材料)合成への展開を考えて,光触媒反応のテスト反応とセシウムイオンの反応性に関する検討を行った。その結果,酸化チタンによる六価クロムの光触媒還元と,セシウムについては金属錯体による吸着メカニズムについて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハロゲン化銀の複合体合成については,金と臭化銀の組み合わせを中心にして,ヤヌス粒子とナノシート構造体の合成に成功したことから,順調に進展していると言える。一方,臭化銀の特異な結晶成長については難航している。これは,臭化銀が電子顕微鏡観察中に変形したり,臭化銀中の銀が析出してしまうことで,その構造が崩れてしまうことがひとつの原因である。さらに,今年度の発見のひとつとして,臭化銀の形成時に共存する臭化物イオン濃度を増大させると,臭化銀の生成する状態(粒子サイズあるいは生成量)がドラスティックに変化することを見いだしたが,このことによって成長を明らかにするパラメーターが増えており,一度全体を整理する必要がある状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
複合体材料の創製については,ハロゲン化銀側の材料が臭化銀に限られており,今後,金と塩化銀との複合体の合成について挑戦する予定としている。また,金と臭化銀のナノシート複合体については,その構造の制御と,その光触媒材料としての応用について検討する。 臭化銀の形成メカニズムの解明であるが,共存する臭化物イオンの役割について明確化する。すなわち,臭化物イオンが多量に共存すると,臭化銀粒子の成長が抑制されるのか,それとも非常に小さな(クラスターサイズの)臭化銀粒子が成長するのか を明確にする。ただ,その形状の電子顕微鏡による直接観察が困難であることから,光散乱による解析,溶存金属イオンの定量分析,質量分析などを組み合わせて,その構造を明らかにする。また,並行して柔軟な構造を有する金属有機構造体や共有結合性有機構造体への内包も検討する予定としている。 銀とハロゲン化物を含む新規材料の合成であるが,既存の合成法をベースに,セシウム-銀-ビスマスを含むペロブスカイト構造のハロゲン化物の薄膜合成について検討する。
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