本研究においては,特に最終年度において,ハロゲン化銀ナノ材料の形状制御合成に関する普遍的知見を得る目的で研究を行った。特に,水溶性高分子であるポリビニルピロリドン(PVP)に着目し,その形状制御能について検討した。その結果,PVPの共存下で硝酸銀と臭化ナトリウム水溶液を混合したところ,特異な形状は有さない臭化銀ナノ粒子がゆっくりと得られた。しかしながら,硝酸銀と臭化ナトリウム水溶液を混合したところ,ただちに不定形臭化銀ナノ粒子が生成し,興味深いことに,その粒子をPVP水溶液に添加して一定時間撹拌を行ったところ,不定形からナノシート形状へと変化することを明らかにした。粒子径分布を始めとする様々な実験を検討したところ,この粒子の形状変化を明らかにした。具体的には,一般的には溶解度積が小さく水にほぼ不要と見なされる臭化銀ナノ粒子が水中に溶解し,PVPが微小化した臭化銀ナノ粒子の特定の結晶面を保護し,その後に溶解した銀イオンと臭化物イオンが再結合して臭化銀として析出する際に保護されていない結晶面に再析出してナノシート形状へと変化するものと結論付けた。同様の手法により,ほぼ不定形の塩化銀ナノ粒子をナノキューブへと変化させることに成功した。これらの成果は,形状制御されたハロゲン化銀ナノ結晶の新たな設計指針を示すものである。さらに,金と臭化銀の接合化学の開拓を目的として,PVP,塩化金酸,硝酸銀,臭化ナトリウムを混合して光照射を行ったところ,スノーマン型の金-臭化銀接合ナノ粒子を合成することに成功した。得られた接合粒子の光学特性について,実測のスペクトルと有限差分時間領域法による計算結果を照らし合わせたところ,接合部分におけるプラズモン増強場を実験的に観察できたことがわかった。その他,金結晶の形状制御合成法,金と金属酸化物の接合化学,金属酸化物新規合成法,光触媒材料の創製を展開した。
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