金属ナノ粒子は近年、触媒、光学材料、光エネルギー変換材料への応用など、幅広い分野で注目されているナノマテリアルである。申請者らは、可逆的な酸化還元応答能を有するキラルアミノ酸を導入した環状ジアミノセレノシクロファンを用い、簡便な金属ナノ粒子合成法を見出した。まず初めに、キラルなアミノ酸誘導体(フェニルアラニンメチルエステル、トリプトファンメチルエステル)を用いて光学活性環状ジアミノセレノシクロファンの合成を実施した。得られた環状ジアミノセレノシクロファンは、単結晶X線結晶構造解析を実施することで、酸化還元応答に対応したコンフォメーション変化の様子を明らかにした。さらに、別のアミノ酸誘導体との脱水縮合によりペプチド化できることも明らかにした。光学活性なフェニルアラニン-メチルエステルを導入した環状ジアミノセレノシクロファンと塩化金酸の混合溶液に紫外光を室温で5分間照射することで、対応する金ナノ粒子の生成を確認した。UV-visスペクトルの測定結果から、金ナノ粒子に由来すると考えられる極大吸収を確認し、CDスペクトル測定より正負対称なコットン効果を観測した。さらに透過型電子顕微鏡を用いた観察により、得られた金ナノ粒子は平均粒子径が3nm程度と、粒子サイズが小さく比較的均一な粒子であることを確認した。また、光照射時間を延ばすことで粒子サイズが変化し、1時間程度の連続光照射において粒子径が数十ナノメートル以上の不均一な金ナノ粒子となることを確認した。一方で、キラルなトリプトファンメチルエステルを導入した環状ジアミノセレニドを用いることで、対応するパラジウムナノ粒子を合成することにも成功した。得られたパラジウムナノ粒子はCDスペクトル測定により、パラジウムナノ粒子に由来するものと考えられる正負対称なコットン効果を500 nm付近に観測した。
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