研究課題/領域番号 |
20K05279
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
湯澤 勇人 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 技術職員 (30636212)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 軟X線顕微分光法 / 赤外レーザー加熱 |
研究実績の概要 |
走査型透過軟X線顕微鏡(STXM)は,試料周りの装置が非常に混み合っているため試料の高温加熱直後の測定が困難である.そこで本研究では,STXM試料チャンバー外から赤外レーザー光を試料に照射して加熱を行うことで,試料周りにできるだけ熱源を残さない加熱システムを組む.さらに本システムを利用し,固体の焼成過程の電子状態マッピングを行うことを目指している.研究初年度である本年は,赤外レーザーの光学系を実際に組み,加熱による変化をSTXMにより測定可能かを調べるために以下の二点に関して実験を行った. (1)カーボンナノチューブの不純物除去 カーボンナノチューブは,単層・多層および重合度の純度を上げる際の分散剤(有機物)などが不純物として残っている試料がある.これは,スペクトル測定において妨害成分となるため,今回のシステムで加熱除去できるかを検討した.赤外レーザー照射で試料を280℃まで上昇させ,15分の照射毎にSTXM測定を行ったところ,75分の照射でほぼ不純物を除去できたと考えられるスペクトルを得た.また,STXM測定中に熱による試料のドリフトも許容範囲であったことから,適用した温度範囲では本システムが有効であることを確認できた. (2)Mn2O3の焼成実験 酸化マンガンは重要な触媒材料であり,マンガンの酸化数によって多くの組成式を取る.そこで,加熱による価数の変化をMn2O3を用いて実験を行った.300℃の加熱10秒毎にSTXM測定を行ったところ,積算で40~50秒程度の加熱でMn3O4のスペクトルと類似したスペクトルを取り,以後変化は観察されなかった.10~40秒のスペクトルは粒子内で分布が観察されたため,現在詳細な解析を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,レーザー加熱による試料の昇温を行い,STXM測定からスペクトルの変化を実際に検出する段階にいたることを計画していた.そのため,研究実績の概要に記載した通り概ね計画通りに研究が進行していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度,実際に赤外レーザーによる試料加熱を利用してSTXM測定におけるスペクトルの変化を検出することに成功した.今後はこれを利用して固体へのドーピングや相転移などの変化の顕微分光観察を行う予定である.ただし,上記の検討は今回報告した加熱温度(300℃)よりも高温(600~1000℃)が必要であるが,現状のシステムでは400~500℃程度までしか温度が上がらないことが分かった.そのため,レーザーシステムの更新,または試料セル上に炭素材料などレーザー光を吸収しやすい材料を置くことにより対応する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度,購入しようとしていた物品の一部について所属施設で一定期間借りることができたため,選定の時間にゆとりができた.そのため,次年度に使用を持ち越すことにしたが物品の購入計画には大きな変更はない.それに加え,本年度はコロナウィルスの影響で予定した出張計画が中止になったことも影響した.これに関しては,新たな出張または試料セルの開発に使用する計画である.
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