走査型透過軟X線顕微鏡(STXM)は,試料の化学状態の二次元マッピングを数十ナノメートル程度の分解能で取得できるため,様々な材料の詳細観察に応用されている.しかし,試料周りの光学系が非常に混みあっているため,試料を高温で加熱する実験は試料のドリフトや周辺の機器へのダメージなどが懸念され困難である.そこで,本研究ではSTXMチャンバーの外部から赤外レーザーを試料位置のみに集光照射し,それ以外の領域では発散するような光学系を組むことによって試料加熱による変化をSTXM観察することを目的としている.最終年度は,元素のドーピングを観察目標として検討した. ヒドラジンを窒素源として酸化チタンへの窒素ドーピングを検討した結果,白色の固体では赤外レーザーの吸収強度が弱いために温度が十分に上がらず,ドーピングの現象を観察することができなかった.そこで適量のグラファイトを混合し,グラファイトをレーザー照射時の熱源とすることによって窒素がドーピングされたことを示唆する吸収ピークを得ることができた.(ただし,吸収ピーク強度がまだ弱いため時間変化を観察できるところまでは到達できなかった.) 本研究では,STXMにより固体試料の加熱による変化を観察する手法を確立することを目指して実験を行った.その結果,カーボンナノチューブの不純物除去によって赤外レーザー加熱によるシステムの有効性を確認し,酸化物の還元の時間変化の観察に成功した.ドーピングに関しては,時間変化の観察には至らなかったが観察の可能性を示すことができた.以上のように,今回の成果は種々の固相反応への応用が期待できる結果となったと考えている.
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