研究課題/領域番号 |
20K05282
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
二谷 真司 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 主任研究員 (40611471)
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研究分担者 |
前田 和紀 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 研究員 (50806776)
宇野 真由美 (音羽真由美) 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 総括研究員 (90393298)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 薄膜コーティング / 高分子重合 / 液相法 |
研究実績の概要 |
モノマーと重合剤の反応液中に布帛を浸しながら重合を行うことで、繊維表面に導電性高分子の薄膜を作製することに成功した。繊維表面に導電性高分子をコーティングすることで、導電性を有する不織布および織布が得られた。コーティングのさらなる均一性向上のために、溶液濃度を調整し希薄条件下で重合を行うことで、より微細な繊維構造に追従した薄膜の形成を実現した。また、コーティングした導電性高分子は、布帛の内部構造まで均一に薄膜を形成しており、布帛表面から裏面の導通は良好で、表面の導電性と内部の導電性に差がないことが示唆された。これは、溶液中でモノマー分子が繊維構造の内部まで拡散し、内部でも重合反応が起こったため均一化したと考えられる。 薄膜を形成した布帛ついて折り曲げ耐久性の評価を行ったところ、繊維の1本1本に導電性高分子のコーティングを行うことで、コーティングの折り曲げ耐久性が大きく向上することが明らかとなった。一方で、導電性高分子の溶液をディップコートにより塗布した場合、溶媒の揮発により固体化した導電性高分子が凝集し不均一なコーティングとなり、折り曲げ時の剥落が多く耐久性は劣っていた。また、薄膜コーティング後の洗浄操作においても、導電性溶液をディップした布帛では剥落により導電性が著しく低下するのに対して、導電性高分子を重合しながらコーティングした布帛では導電性の低下が抑制された。これらの結果から、布帛を反応溶液中に浸漬しながら重合反応を行うことで、繊維という微細な構造に対しても均一なコーティングが可能であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
導電性高分子の薄膜コーティングにおいて、モノマー溶液中に被着物である布を浸漬しながら重合反応を行うことで均一な薄膜を形成することに成功した。このように、モノマー分子を含む反応溶液中に被着物となる基材を浸漬させながら重合反応を行うことで、目的とする高分子の薄膜を基材に対して均一にコーティング可能であることが実証できた。 さらに、当初の予定通り、反応溶液の濃度の調整によって重合速度をコントロールし、生成した高分子が表面吸着して薄膜を形成する速度と、溶液中に高分子凝集体として析出してしまう速度のバランスを制御することが可能となった。電子顕微鏡観察の結果、作製した導電性高分子の薄膜は期待通りの均一性を有しており、繊維の微細な構造にも追従していることが確認できた。また、均一性の向上に由来して、導電性の向上も明らかとなった。さらに、連続折り曲げ試験による薄膜の追従性評価は当初の研究計画には含まれていないが、コーティングの均一性と被覆率の向上が機能性に良い影響を及ぼすことを示す一指標として有用な方法であることが分かった。 重合速度の調整による均一性の向上は達成できたが、濃度の調整による会合速度のコントロールだけでなく、酸化剤の等量調整や温度の調整による反応性のコントロールを用いた速度論的アプローチを用いた膜質制御も検討の必要がある。また、被着物である基材の表面エネルギーや表面官能基の変更による熱力学的アプローチはさらなる検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、導電性高分子重合の際の反応等量制御、温度制御といった速度論的アプローチを拡充させると同時に、被着物の表面エネルギーや表面官能基変換による生成被膜の熱力学的安定化にも着目して、さらなるコーティングの均一性向上を目指す。また、これまではエチレンジオキシチオフェン系のモノマーとスルホン酸径の酸化剤に固定して条件検討と評価を行ってきたが、これらの反応基質についてもより適した化学構造を探索する。さらに、導電性高分子だけでなく、絶縁性高分子による被覆も試みる。現在、化学気相成長法による絶縁被覆の作製は既知の技術であるが、液相において絶縁性高分子をモノマーから重合しながらコーティングする方法は確立されていない。導電性高分子による条件検討で得られた知見を基に、絶縁性高分子への応用が可能であるかを検討する。被覆した高分子をさらに官能基変換することで、さらに別種の高分子鎖を導入し、分子層レベルでの機能性制御と複合化も試みる。 均一性の評価については、導電性高分子の導電率評価を基本として、電子顕微鏡による表面状態観察と連続折り曲げ試験によるコーティングの緻密さの評価を引き続き行う。特に、絶縁性のコーティング評価においては、折り曲げ試験とその試験前後での表面観察が有用であると考えられる。これらの評価により得られた均一性の指標と、各種条件検討のパラメータを体系化することで、反応性と機能性の相関関係について明確化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、発表予定であった学会等がいずれも中止となり、旅費として執行できなかった。翌年以降に延期された学会等については、順次執行予定である。 また、当該年度に購入予定であった物品も、感染症対策により納期未定となり、当初見込みよりも低額の代替品を使用することとなった。次年度に、さらなる研究推進のためのオプション拡充と、消耗品費として使用予定である。
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