生体内、特に細胞内で安定なナノ材料を設計するうえで、ナノ材料の細胞内安定性を比較可能かつ定量的に評価する方法が必要となる。この評価法の確立を目指し、本研究課題ではナノ材料を細胞内へ一定効率で運ぶための細胞内送達ナノキャリアの開発を行った。 これまでの研究成果として、ナノキャリア開発においてその母材となる磁性ナノ粒子(MNP)の細胞内安定性の向上のために化学量論に基づくシリカシェル構築を行った。続くMNPへの精密位置制御分子修飾反応はMNPを凝集させることなく行う必要があるため、MNPの分散安定性について検討を行った。分散安定化には、従来の高分子分散剤ではなく低分子分化合物の利用を試み、分散剤として有望な化合物を見出した。これにより、液性を著しく変化させ、かつ除去も困難となる高分子分散剤の問題を回避でき、この分散剤溶液中の反応でMNPが凝集しないことを確認した。 これらの実験と並行して、ナノ粒子表面に修飾する最適な一次修飾分子の探索を行った。細胞内で安定なナノ材料の開発において、一次修飾分子の安定性は重要である。候補化合物群を配位子安定性試験により評価し、安定性の高い一次修飾分子を見出した。 MNPの分散安定性は、分子修飾反応のみならず様々な反応条件で保持される必要があり、精製や保存時もナノ粒子の凝集抑制が求められ、研究課題の達成に大きく関わる。したがって、最終年度は前年度に見出した分散剤の分子構造をもとに、より安定化効果の高い分散剤の探索とその安定化機序の解明に取り組んだ。検討の結果、より分散安定化効果の高い分子の構造的特徴および物理パラメータを特定することができた。また、この機序は分散剤がナノ粒子表面近傍に電気二重層様の集合構造を形成することによるものと示唆された。
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