研究課題/領域番号 |
20K05286
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
山下 真生 沖縄科学技術大学院大学, 量子波光学顕微鏡ユニット, スタッフサイエンティスト (10727639)
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研究分担者 |
安谷屋 秀仁 沖縄科学技術大学院大学, 量子波光学顕微鏡ユニット, 技術員 (00868721)
CHEUNG Martin 沖縄科学技術大学院大学, 量子波光学顕微鏡ユニット, 技術員 (90832163)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エレクトロスプレー |
研究実績の概要 |
研究 計画調書の研究計画(図4)では2021年度は真空蒸着条件の最適化に取り組む予定であったが、後述する理由により真空中での蒸着実験の実施が現時点では困難な状況であるため、ベベル型ESIキャピラリーの先端形状の最適化と性能評価の2点を中心に研究を進める形に計画の変更を行った。まず、先端形状の最適化について述べる。ベベル型キャピラリーでは先鋭化されたキャピラリーの先端部からスプレーが発生するため、この部分への安定した試料溶液の流れが形成されるよう先端形状を最適化することが安定したスプレーを得るために重要となってくる。最適化実験では、先端径が10から30マイクロメートル、ベベル部のアングルが10から60度であるESIキャピラリーをマイクロインジェクションニードルの作製に利用される、マイクロフォージとガラス研磨機、更に最小駆動距離5nmの電動マニピュレーターをキャピラリーの保持とポジショニングに用いて精密に作製した。それらのキャピラリーと生体高分子溶液を用いて最適なキャピラリー形状についての検討を行った結果、先端径20マイクロメートル、先端部のベベルアングル30から45度の時、最も安定したスプレーの発生が可能となることを確認した。次に、この最適化したESIキャピラリーを用いてイオン電流とESI電圧について詳細な検討を行った。その結果、ベベル型のESIキャピラリーでは既存のESIキャピラリーと比べより低電圧で安定なスプレーが可能であり、この特性はコロナ放電による試料ダメージを抑える上で有用であることが確認された。2021年度後半からこの最適化したキャピラリーを用いた真空分子蒸着装置による蒸着実験を開始した。しかし、前回の報告書で述べた真空中チャンバー内へのイオンの導入効率の低さの問題は未だ解決できておらず真空中での蒸着条件の最適化は十分に実施できていない状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は真空分子蒸着装置内での分子蒸着条件の検討を中心に研究を進める計画であったが、真空装置内へのイオンの導入効率の低さの問題の解決が難航しておりこの解決なしでは真空中での蒸着実験の実施が現時点では困難な状況である。このため、2021年度は研究計画を若干変更し、新規に開発したベベル型ESIキャピラリーの最適化及び性能検証を軸に研究を進めた。昨年度の研究では、ベベル型ESIキャピラリーが生体高分子溶液を用いたエレクトロスプレーに極めて有用であることを報告したが、昨年の時点ではこの先端構造をもつキャピラリーを精度良く加工することが難しくキャピラリーごとの性能のばらつき(特にスプレーの安定性の良否)が顕著であった。研究実績の概要の項で述べたように、ベベル型ESIキャピラリーで安定なエレクトロスプレーを発生させるためにはキャピラリー先端部が精度良く加工されている必要がある。これを達成するためマイクロインジェクションニードルの作製に利用される、マイクロフォージとガラス研磨機用いたキャピラリーの加工法を新たに考案し、加工 精度を大幅に向上させることに成功した。加工精度が向上したことによりベベル型ESIキャピラリーの先端形状の最適化が可能となり、これによりキャピラリーの詳細な性能評価が可能となった。2020年から2021年にかけて実施した新規のESI法の開発と大気中でのエレクトロスプレーデポジション法による電子顕微鏡試料作製に関する研究は”Successful application of electrospray molecular deposition for SEM observation of mesoscopic biostructures”というタイトルで論文の形にまとめ、現在投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
上述した通り、2021年度の後半からベベル型ESIキャピラリーを真空分子蒸着装置に搭載した実験を開始したが、昨年の報告で重点課題として掲げた大気中で生成した試料分子の分子イオンを効率的に真空チャンバーに導入する装置条件の確立にはいまのところ至っていない状況である。現状では例えば1時間真空分子蒸着を行っても、TEMグリッド上にはほとんど何も到達していない状況である。脱溶媒が不十分な試料を注入した場合、グリッド上への試料の到達は比較的容易に確認できたが、この場合、試料は10から30マイクロメートル径の液滴の状態でTEMグリッドに入射するため、液滴との衝突に試料支持膜が耐えられず直接デポジションを行うことは不可能であった 。昨年の報告書で検討項目として述べた装置のイオン導入部の改良ついても検討を行ったが、時間及びコストの観点から、本研究の枠内で装置の大がかりな改良を実施することは残念ながら困難であるという結論に至った。今後はイオン導入部のキャピラリーの内径、長さの検討や、差動排気部の圧力の調整といった既存の装置の運転条件を最適化することでイオン導入部の通過イオン量を増加させることができないか検討を行っていく予定である。一方、ベベル型ESIキャピラリーを用いた大気中でのエレクトロスプレーデポジションについては良好な結果が得られているため、現在投稿中の論文を完了することと赤痢菌のⅢ型分泌装置複合体やウイルスなどの試料に対する本手法の有効性の検討を中心に今後の研究を進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は研究の進捗の遅れから予定していた学会での発表を見送るなどしたため、その結果予算として申請した旅費が未使用のまま残る形となった。未使用分については本年度の学会発表で使用する計画である。
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