研究課題/領域番号 |
20K05288
|
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
久米村 百子 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (50533642)
|
研究分担者 |
金田 祥平 工学院大学, 工学部, 助教 (10542467)
藤田 博之 東京都市大学, 付置研究所, 教授 (90134642)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | MEMSピンセット / 細胞機械特性計測 / 単一細胞 / 遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
生体組織の生理学的・病理学的な状態は、細胞の硬さ、粘弾性、変形能などの機械的な特徴として表出すると言われており、機械特性は、細胞機能の理解や病理状態の把握のための重要なパラメータになると期待できる。細胞の機械特性は、主に細胞核と細胞骨格に由来すると考えられる。アクチンやビメンチン等の細胞骨格に対応する遺伝子は同定されているが、遺伝子発現情報と実際の細胞の機械特性についての関連性を単一細胞スケールで評価することはこれまで困難であった。本研究は、細胞の機械的な特徴と、細胞骨格タンパク質の遺伝子発現量との関連性を明らかにする実験プラットフォームを用い、単一細胞レベルで評価することを目的に実施中である。本研究では、大きく以下の3つの課題を実施中である。(1) 研究チームが以前より研究開発してきたMEMSピンセットを用いて、浮遊細胞の機械特性計測と生化学実験系へ細胞搬送する評価フローを基に、プローブ接触型MEMSによる接着細胞の機械特性計測を行い、その後の細胞搬送と遺伝子発現解析に導く。(2) あらかじめ細胞骨格タンパク質の発現を制御した細胞の特性を評価する。(3) 細胞の局所的な機械特性計測とその箇所の遺伝子発現情報を得る。 令和2年度は、コロナウイルス感染症拡大の影響により研究遂行にやや遅れが出たものの、デバイス作製工程最適化、遺伝子発現解析実験の予備実験等を行い、上記課題を達成するための基礎を固めることができた。また、令和3年2月に、Zoomによる研究進捗会議を開き、久米村、藤田が進捗状況の報告と議論を行なった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は、主として、(1) MEMSデバイス作製工程の見直し、(2) MEMSによる細胞の切断の検証、(3) 遺伝子発現解析の予備実験の3項目を実施した。 (1) デバイスの作製において、使用するシリコン深掘りエッチング装置の変更により、MEMS作製工程を変更する必要が生じた。作製レシピにいくつかのステップを追加し、最適化を行なった。 (2) 細胞の一部分の機械特性評価と遺伝子発現情報の関係性を評価する課題について、1細胞を切断できるかどうか検証を行なった。プローブ型MEMSをマニピュレータに固定し、顕微観察しながら接着細胞に対してプローブを垂直方向に下降させて、細胞に押し当てる操作により、細胞を切断できることを確認した。 (3) 平成28-30年に実施した基盤C研究では、細胞サンプルの遺伝子発現解析において、コンタミネーションを示すネガティブ試料からのピーク立ち上がりが起きていた。正確かつ信頼できる解析を実施するため、遺伝子発現解析の基礎実験を行なった。GAPDH遺伝子について、細胞試料からmRNAを抽出、合成したcDNAより遺伝子発現解析を行い、ネガティブ試料においてコンタミネーションが起きていないことを確認した。 研究計画においては、細胞の機械特性と遺伝子発現情報の相関比較を、複数の遺伝子について進める予定であったが、MEMS作製工程最適化の必要が生じたため、これを優先的に実施した。
|
今後の研究の推進方策 |
MEMS計測系については、プローブ型MEMSによる計測システムの構築、細胞部分回収用MEMSピンセットの開発を行う。プローブ型MEMSのプロトタイプの実証試験はすでに行なっているが、プローブ押し下げ量に応じた細胞からの応答取得を再現性良く得るために、計測システムの検証を行う。これにより実験結果の信頼性を確保する。令和2年度に単一細胞を切断することが確認できたため、これを回収して生化学分析フローへ持ち込むためのMEMSピンセットを作製する。従来用いていたMEMSピンセットは、プローブ間のギャップを細胞サイズに合わせて15-25マイクロメートル程度と設計しているため、プローブをほぼ閉じることのできるMEMSを開発する。遺伝子発現解析のパートでは、単一細胞計測後のビメンチンとケラチン-14の遺伝子発現情報の比較を行い、上皮間葉転換と細胞機械特性について考察を深める。計画に含めている細胞骨格タンパク質の発現を制御した細胞の機械特性評価については、予定していた変異型DNAの外部発注費用が大きく、実施可能性を検討中である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者藤田が九州業大学に出張し研究打ち合わせを行う予定であったが、コロナウイルス感染症拡大状況を考慮して今年度は中止した(旅費50,000円)。これは旅費として次年度に持ち越して使用する。
|