研究課題/領域番号 |
20K05290
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
藤原 英樹 北海学園大学, 工学部, 教授 (10374670)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ランダムレーザー / 局在場 / 磁場応答 |
研究実績の概要 |
今年度は、レーザー誘起表面凹凸形成法を用いた簡易な手法により、磁性体であるNiFe薄膜をコートしたGaN基板表面上のランダムレーザー発振の磁場応答に関する研究をまとめ、Appl. Phys. Lett.に研究成果が掲載された。この成功を基に、異なる波長域での表面凹凸ランダムレーザーおよびその磁場応答を実現するため、GaNに代わり近赤外域で発光を示すGaAs基板を用いた表面凹凸ランダムレーザーの検討を行った。GaAsのバンドギャップよりも遥かに大きいエネルギーを持つUVパルスレーザーでは、表面の凹凸が形成されると同時に破壊も起きるため、レーザー発振の確認はできなかった。そこで、よりバンドギャップエネルギーに近いグリーンパルスレーザーを用いて照射強度や時間などの構造作製条件の最適化を行ったところ、照射強度 10 mW、照射時間数秒程度で低いしきい値を示す近赤外ランダムレーザー発振の誘起に成功した。現在は昨年度と同様に、このGaAs基板上に磁性体を分散させた構造を作製し、磁場応答の有無を確認するための実験を継続中である。 また、磁場応答以外の外部刺激応答についても研究を進め、今年度は二酸化バナジウムの絶縁体―金属相転移を利用したランダムレーザーのスイッチング動作についても研究を進めた。この実験では、ZnOナノ粒子膜にVO2粒子を分散させた試料を用意し、ZnOを励起するためのUVパルスレーザーに加え、VO2を加熱するための405nmCWレーザーを同時照射した。その結果、加熱用レーザーがあるパワーを超えるとランダムレーザー発振が急激に抑制される様子を確認し、VO2の相転移によるものと思われるスイッチング動作の誘起にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的どおり、磁性薄膜コートGaN基板を用いたランダムレーザーの外部磁場制御に成功し、論文掲載を行った。また、他波長への拡張をめざし、レーザー誘起表面凹凸形成法をGaAs基板に適用することによって、近赤外域での表面凹凸ランダムレーザーの誘起にも成功した。さらに他の外部刺激応答手法の実現も同時に試み、二酸化バナジウムの金属―絶縁体相転移を利用したランダムレーザーのスイッチング動作にも成功した。 これらの作製手法や制御手法に関する学会発表11件、論文1報、総説1報、本(分担執筆)1冊を発表した。研究は順調に推移しており、磁場応答以外の外部制御技術への発展も進んでいる。今後はこれらの成果をさらに発展させ、磁場印加だけでなく、様々な外部刺激によるスイッチング動作や発振波長チューニングなどの局在場特性制御を試みる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
GaAs基板における構造最適化の研究を継続して行い、レーザー照射強度や照射時間だけでなく、照射波長や開口数などのパラメータも制御を行い、さらなる構造の最適化を目指す研究を進めるとともに、磁性体粒子が分散した構造の作製を試みる。この試料を用いてレーザー発振強度や応答速度に対する磁場強度依存性を確認し、外部磁場を用いた近赤外ランダムレーザー発振制御を実現する。また、二酸化バナジウム粒子を用いた外部加熱や外部光照射によるスイッチングメカニズムを明らかにするため、試料の光加熱だけでなく、ヒーター加熱を同時に行い、絶縁体―金属相転移現象がランダムレーザー発振に変化を及ぼす原因かどうかを明らかにする。このVO2粒子の結果を表面凹凸ランダムレーザーにも利用し、相転移現象でもチューニングやスイッチングが可能かどうかを検討する。これらの研究により、半導体基板上に制御可能なランダムレーザーを直接描画する技術を開発し、最終的には先行研究を参考にショットキー電極(Al/GaN界面)を基板凹凸表面に形成することにより、電気駆動による基板からの発光やレーザー発振が可能となるかどうかを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの蔓延により、出張がほぼ取りやめとなったことと、見積額よりもレーザーを安く入手できたために計画時との金額に差額が生じた。 差額分は、次年度においてGaAs基板を用いた外部磁場応答の実験やVO2粒子の相転移を利用した発振モード制御の実験を行うための光学部品や加熱用ヒーター、GaAs基板やVO2粒子の購入に使用する予定である。
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