研究課題/領域番号 |
20K05293
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
堀内 敏行 東京電機大学, 工学部, 研究員 (00297582)
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研究分担者 |
小林 宏史 東京電機大学, 工学部, 准教授 (80838855)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 立体面投影露光 / リソグラフィ / 放物面鏡 / マジックミラー / 投影像 |
研究実績の概要 |
本研究は緩い任意曲面上のパターンを同じ形状の別の曲面上に一度に投影露光して転写する立体面投影露光技術の開発を目的とする。二つの放物面鏡を対向させて重ね、下ミラーの 開口中央部に透過パターンを有する原図物体を置いて斜め下方から照明し、上ミラーの開口中央部に置いた被露光物体の表面にパターン像を投影して転写する。令和2年度に、ミラー直径が140mm、全高が50mm、開口の直径が40mmの教材用マジックミラー光学系を用い、立体原図物体が投影できることを確かめた。令和3年度は、4月にまずその成果を国際シンポジウムPMJ 2021で発表し、Proc. of SPIE に投稿した。続いて、リソグラフィが可能であることを実証するため、このマジックミラー光学系を用いたプロトタイプ投影露光装置を自作した。そして、平面レチクル上の200μmラインアンドスペースパターンをSiウエハ上に実際に転写できることを確認し、9月の応用物理学会秋季学術講演会に発表した。また、パターン形成の特徴を検討するため、レチクルから出る光線が像面のどこへ進むかを調べた。その結果、レチクルから出る光線がミラーのどの位置で反射するかによって像面での到達位置が変化することが分かった。したがって、レチクル上の同一点から出る光線の経路が広がらないように照明することが必要である。この内容は8月の電気学会基礎・材料・共通部門大会に発表した。また、パターン形成結果の特徴が光線追跡結果によりある程度説明できることを国際会議MNC 2021にて発表し、成果をまとめてJJAP誌に投稿した。照明を工夫してパターン形成性能を大幅に改善した結果は3月に応用物理学会春季学術講演会に発表した。一方、プロトタイプ投影露光装置を用いた実験で得た知見を反映させながら、新たな立体面投影露光装置を製作して組み立てた。改善や機能追加を順次実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で登校が制限され続きであったため、非常に制約の大きい中での研究となった。対策を取らないと思うように研究が進まないと考え、露光装置の製作、組立とパターン形成のための露光実験は自宅の片隅で行うこととした。 露光装置については、アングル材の骨組み構造とし、加工無しで骨格が組めるようにした。また、ステージ、光源、ミラーなどを取付けるための部品は、図面寸法に切断したアルミ切り板を購入して、組立用のねじ穴や貫通穴の位置を予め罫書いておき、数少ない登校日にボール盤で穴あけに専念して部品を揃えた。ねじ切り、板材端部の仕上げは自宅で簡易工具を使って手加工で行った。これらの対策により、プロトタイプ露光装置、立体面投影露光装置とも、ほぼ当初の予定通りに製作を進行することができた。 一方、リソグラフィによりパターンを形成するには、レジスト(感光性樹脂)を被露光物に塗布し、マスクでパターン形状に遮光して他部に光を当てて露光し、その後、現像液に浸漬する。光が当たった部分のレジストが現像液に溶解し、光が当たらなかった箇所が残ってパターンが形成される。したがって、露光のほかに、レジスト塗布と現像の工程が必要であり、これらは、薬品を使用し、作業中の室内光によるレジストの感光を防ぐため黄色照明クリーンルーム内での作業が必要である。通常は、露光装置もクリーンルーム内におき、レジスト塗布、露光、現像を連続して行う。露光実験を自宅の暗所で行うようにしても、塗布後のレジストの感度変化や露光後現像までの放置時間の影響が大きければ実験にならない。しかし、塗布後や露光後、各1-2週経っても性能がほぼ維持されるレジストがあったため、時間がかかる露光工程さえ自宅でできれば、短時間で済むレジスト塗布と現像だけなら登校日にできた。それでも実験の制約は大きいため、計算によりパターン像形成の特徴を把握し、実験を補う対策も取った。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に製作した教材用マジックミラー光学系を用いたプロトタイプ露光装置は幾度かの改善を経て有用な実験装置になっている。新たに製作し、改善・調整中の立体面投影露光装置を実験に供せるようにできるまで、今年度も積極的に活用して研究を推進する。当面、平面レチクル上の10mm角フィールドのテストパターンをSiウエハ上に露光時間、焦点位置を色々に変えて転写することにより、露光量やフォーカスの余裕度、フィールド歪の傾向や大きさなどを順次定量的に把握して行く予定である。また、円筒面など、単純な立体面上へのパターン転写の実証を早く行いたいと考えている。しかし、立体被露光物へのレジスト塗布、被露光物表面上のパターン像形成状態の把握方法など、立体面へのリソグラフィを行うのに不可欠な基礎技術の検討がまだまだ不十分である。まずはこれらの基礎技術をもう少し検討する。塗布に関しては、不定形の試料を浸漬して引き上げる装置と回転する装置を準備している。場合によってはスプレー塗布も検討する。プロトタイプ露光装置では照明方向や光源の位置があまり大きく変えられないため、露光フィールドの投影パターン像上に迷光が少し重なってしまっている。そのため、パターン像の明暗が二値的には変化せず、露光量や現像時間を増すと、現像時にレジスト膜が全面的に削られ、パターンが劣化したりできなくなったりする。立体面にレジストを薄く塗布することはウエハより難しく、レジストが厚いと明暗差が不十分な投影像ではパターンが形成できないと予想される。レジスト塗布の検討とともに、製作中の立体面投影露光装置では迷光が被らない照明光学系を実現しなければならないと考えている。この立体面投影露光装置により、本研究で目指す緩い任意曲面上のパターンを同じ形状の別の曲面上に一度に投影露光して転写することができるようにするべく努力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、発表や参加を計画していた国内外の学会が中止になり、中止でない場合もオンライン開催となった。消耗品が不足したため、旅費用として計上していた額の一部を物品費に回した。しかし、コロナ禍が収まった後、できれば成果を国際会議などで対面発表したいと考え、旅費を確保するため次年度に回した。
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