研究課題/領域番号 |
20K05298
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高松 智寿 東北大学, 工学研究科, 助教 (60708428)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熱電変換 / ペルチェ冷却 / 非対角ゼーベック効果 / 傾斜積層構造 |
研究実績の概要 |
本研究は,冷却技術に革新をもたらす非対角熱電効果を用いた新しいペルチェ冷却素子の実現を目的としている.非対角ペルチェ冷却素子を実現するには,3年間の研究期間の中で,PHASE(1)優れた熱電材料の開発と,PHASE(2)傾斜積層構造の実現が重要である.そこで,2020年度は非対角ペルチェ冷却素子用のCrSi2系熱電材料の高性能化と,無置換CrSi2を用いた放電プラズマ焼結法による傾斜積層構造の作製条件の最適化に取り組んだ. まず,CrSi2系熱電材料の高性能化を実現するために,WIEN2kとBoltzTraPを用いた第一原理計算により,熱電材料CrSi2のCrサイトに置換する元素AおよびSiサイトに置換する元素Bの種類とその置換量xおよびyを変化させた場合のバンド構造と熱電特性を計算し,出力因子PFが最大となる組成を求めた.その結果,CrサイトをMoで部分置換することでPFが向上することを見出した.次に,傾斜積層構造の作製条件を確立するために,無置換CrSi2を熱電材料層とし,金属層部分にはCu, Ti, Nb等の融点が大きく異なる金属を選定して作製を試みた.様々な条件の下で作製を試みた結果,選定した中で最も融点の高い金属であるNbを用いた場合に傾斜積層構造を有する焼結体を作製することができた.他の金属の場合では,融点が低いために放電プラズマ焼結の際に内部の温度が設定値よりも高くなってしまい,試料が融解して作製することが現時点ではできていない.金属層はできるだけ高い電気伝導率を有する金属が良いことから今後はCuなどの低融点でも焼結ができる作製条件を見出していく必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間1年目の2020年度では,非対角ペルチェ冷却素子用の高性能な熱電材料の開発を目標と定め,WIEN2kとBolzTraPによる第一原理計算を用いてCrSi2系熱電材料の高性能化につながる置換元素の選定を行った.その結果,CrサイトをMoで部分置換することで,形式価数上はキャリアドーピングは行われないが,格子定数の変化によりフェルミレベル近傍のバンド構造が変化することでゼーベック係数や電気伝導率が変化し,結果としてMo量の最適化によりPFが向上する可能性を見出した.この計算結果を下に,アーク溶解法やソフト化学法を用いて試料を作製中である.また,並行して,無置換CrSi2を用いて放電プラズマ焼結法による傾斜積層構造体を作製可能な条件の探索も行った.熱電材料の間に挟む最適な金属試料を選定するために融点の異なるCu, Ti, Nbを選んで焼結を行った.その結果,放電プラズマ焼結法の原理的な問題により,低融点の金属では設定温度以上に温度が上昇して融解してしまい,Nb以外では傾斜積層構造は得られなかった.金属層には高い電気伝導率を有するCuを用いることが理想的であるため,次年度ではCuを用いた傾斜積層構造を作製できる条件を見出すことが目標である.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降の研究の推進方策は,まず,第一原理計算により熱電特性が向上すると予測されたMo元素を部分置換した(Cr,Mo)Si2の試料を作製し,熱電特性を調べる.次に,無置換CrSi2試料とCuを組み合わせた傾斜積層構造の作製条件を決定する.これらの結果を下にして,(Cr,Mo)Si2とCuを組み合わせた傾斜積層構造体を作製し,ペルチェ冷却の性能を評価することを目指す.同時に,シミュレーションによってペルチェ冷却の性能が最大となるような熱電材料層と金属層の厚さや角度を予測し,実測値とフィードバックさせながら最適化していくことを目指す.
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