研究課題/領域番号 |
20K05303
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 和則 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (60379097)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / スピントロニクス / コヒーレントポテンシャル近似 / KKRグリーン関数法 / QSGW法 / 磁気励起特性 / 電気伝導特性 |
研究実績の概要 |
基本的な強磁性体であるFeに加えて、ハーフメタル(HM)材料などの特異な電子状態をもつスピントロニクス材料について、その有限温度での物性を第一原理から精度よく計算する手法を開発し、それを新規スピントロニクス材料のデザインに応用することを目的として研究を実施している。本年度は、(1) 準粒子自己無撞着GW法(QSGW法)に基づく磁気励起スペクトルの超高精細計算、(2) Gd添加GaNの多階層連結磁性シミュレーション、(3) ハーフメタリックCo2MnSiの有限温度電気伝導特性計算、を実施した。 (1)について、Co2(Mn, Fe)Siなどの典型的なハーフメタル材料について磁気励起スペクトルを系統的に計算して有限温度磁性の議論のためのデータ集積を進めるとともに、スピン波分散計算アルゴリズムの工夫を行い趙高精細計算をFeなどの典型的な強磁性体について実施した。これにより、バンド構造と磁気励起をより高精度に対応づけることが可能となり、遍歴磁性の精密な議論が可能となった。 (2)について、多階層連結シミュレーションによりGd添加GaNの有限温度磁性のシミュレーションを行った。本系は局在モーメントのモデルがよく成り立つことから、磁気モーメントの横ゆらぎの効果のみを考慮したシミュレションを実行した。ホール誘起強磁性や巨大磁気モーメントの起源に関わる知見を得た。 (3)について、典型的なHM材料の一つであるCo2MnSiについて、電気伝導特性をKKR-CPA法による電子状態計算に基づき計算した。格子振動、磁気励起、不純物による電子の散乱をコヒーレントポテンシャル近似により電子状態計算に取り入れ、久保・グリーンウッドの方法により電気伝導度の温度依存性を計算した。実験との一致はよく、スピントロニクス材料の有限温度での特性評価が実施可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請書で研究項目として挙げている、QSGW法の磁気励起スペクトル計算への応用に関しては、本年度は、超高精細計算を可能にし、より詳細に遍歴電子系の磁気励起を議論できるようになった点で大きな進歩があった。これについては、主たる共同研究者である小谷教授(鳥取大)との共同研究で、ハイゼンベルク模型を発展させた磁性体の新しいモデル化の方法論開発に研究が進展しつつある。また、QSGW計算を様々なホイスラー合金(Mn-、Fe-、Co-基ホイスラー、4元ホイスラー、逆ホイスラー)への応用が進んでおり、QSGW関連の計算については予定以上に進展していると言える。
多階層連結シミュレーションについては、従来から用いているハイゼンベルク模型に基づく有限温度磁性の計算については、希土類添加半導体系に応用が進んでおり、材料が合成された当時から謎であったGd添加GaNの巨大磁気モーメントの起源についての議論が進んだ。一方、申請書記載のたてゆらぎを入れたモデルかについては、予備的な計算を基本的な強磁性体について進めたのみでシミュレーターの完成には至っておらず、この点はあまり評価できない。ただし、計算を進める途中で、局所磁気モーメント不規則状態(Local Moment Disordered state: LMD)を用いた有限温度磁性の計算をFe-Pdインバー合金について行ったところ、それらの熱膨張係数の温度依存性をうまく表現できることがわかってきており、この方向での有限温度磁性のシミュレーションを研究の第3の方向性として検討し始めている。この点においては、新しい研究発展の方向性を示唆できたということで、進展があったと考えている。
以上のことから、両方の 研究項目について成果が得られていることと、研究を進めるうちに新しい方向性を発見できたということから、「当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
QSGW計算については概ね計画書通りに進展しており、今後もこの方向性で鳥取大の小谷教授との共同研究を進めつつ、3d系に加えて4f系の磁性体への応用を目指していく。これについては、すでに2020年度に鳥取大で「スピンと軌道の理論」研究会を開催しており(2020.12.27~28、鳥取大)、本申請書で提案している研究ネットワークをより拡大する方向で動いていく予定である。また、研究代表者は本年度から大阪大学の国際共同研究促進プログラムでUppsala大とのネットワークを引き継いだので、海外へのネットワーク拡大も視野に入れて国際ワークショップを企画する予定である。
多階層連結シミュレーションに関しては、まずは昨年度の研究で示唆されたLMD状態の計算を有限温度磁性に応用する方向を検討する。LMD計算は最近ではスーパーセルを用いた計算も実施されているようであるが、研究代表者が主に使用しているKKR-CPA法による計算が最も精度が高く計算負荷の観点からも有利であると考えられる。磁性体の自由エネルギーへの、格子振動の寄与、磁気励起の寄与をそれぞれデバイモデルまたはフォノン計算とLMDを用いた計算により実行し、磁性体のエントロピーの温度依存性を計算する。スピントロニクス材料の有限温度の電子状態計算に応用するほか、直接的には磁気冷凍材料の計算機マテリアルデザインに適用できると考えている。
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