研究課題/領域番号 |
20K05304
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大西 紘平 九州大学, 理学研究院, 助教 (30722293)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スピン流 / 超伝導 / トリプレットクーパー対 / 非局所測定 / スピンバルブ測定 / 面内構造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、Fe/Cr層を用いたトリプレットクーパー対の生成技術とスピン信号の測定技術を駆使することにより、超伝導電流におけるスピン偏極率を非局所スピンバルブ測定により決定することである。さらに、トリプレット超伝導体に同技術を適用することで、そのクーパー対のスピン状態を検証可能とすることを目指す。初年度にあたる2020年度には、研究を遂行するうえで重要となるFe/Cr層によって生成されたトリプレットクーパー対の緩和過程に関して研究を行った。 Fe/Cr層を含むトリプレットクーパー対生成層によって生じたトリプレット超伝導電流は強磁性体中で長い緩和長を有することは知られていたが、非磁性体中およびシングレット超伝導体中での緩和長については、調べられていなかった。そこで、2つのトリプレットクーパー対生成層でシングレット超伝導体であるNb層を挟む積層構造を作成し、そこに流れる超伝導電流の温度および中間層の膜厚依存性を測定し、中間層での緩和長を見積もった。 Nbが常伝導状態となる温度領域での緩和長の膜厚依存性から、トリプレットクーパー対の生成を確認するとともに、シングレット超伝導電流よりも短い緩和長となることを確認した。これはシングレットクーパー対と異なり、スピン偏極を有するトリプレット対ではNb中のスピン軌道相互作用により容易にコヒーレンス性を失うためと考えられる。また、Nbが超伝導状態となる温度領域での測定により、シングレット超伝導体中では、トリプレットクーパー対は、その対エネルギーの再分配から伝導が阻害されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスにより英国ケンブリッジ大学で成膜後、試料を持ち帰ることが困難となったため、当該年度は所属機関である九州大学での成膜を検討した。現在、それによって成膜された多層膜試料の評価およびピラー構造への微細加工技術の確立を進めている。また同時に、ケンブリッジ大学で実施された実験結果の解析およびその論文化を進めた。さらに、年度の最後にはケンブリッジ大学の研究室が通常稼働を始めたことを確認し、多層膜作成の依頼を行った。 以上のことから、新型コロナウイルスの影響もあり、当初の予定とは異なり九州大学での成膜手法を並行して用いてはいるが、トリプレットクーパー対による面内スピンバルブ構造の作製に向けて着実に研究を進めており、概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
先駆的な研究を行っている英国ケンブリッジ大学のグループとは引き続き共同研究を進めるとともに、九州大学にて成膜した多層膜についても実験を行う。具体的には、Fe/Cr層を用いた面内構造を作製し、スピン信号の観測を目指す。多層膜からArイオンミリングを施すことで、Fe/Cr層を有する超伝導体ナノピラーをCu膜上に作製する。その後、リソグラフィを再度行うことで、電極を作製する。このとき、ナノピラー間の距離をコヒーレンス長以上とすることで、拡散スピン流への変換が実現され、スピン偏極率に比例するスピン信号の測定ができる。さらに研究代表者が習熟しているスピン流吸収モデルに基づく計算を行い、スピン緩和長、スピン偏極率などを決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
おもに、購入予定であった低ノイズ電流源について、研究計画の変更により、次年度以降での購入に変更したためである。その他、新型コロナウイルスの流行により、オンラインでの研究会および打ち合わせが主体となったためである。 次年度使用となった助成金については、翌年度分として請求した助成金と合わせ、低ノイズ電流源を購入するとともに、測定のための寒剤や試料電極のための蒸着材料購入に充てる予定である。また、新型コロナウイルスが落ち着き次第、順延となっている現地開催予定の国際会議や、ケンブリッジ大学との直接の打ち合わせのための旅費としても使用する。
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