研究課題/領域番号 |
20K05305
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
重田 出 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (30370050)
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研究分担者 |
窪田 崇秀 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (00580341)
廣井 政彦 鹿児島大学, 理工学域理学系, 教授 (80212174)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 超伝導 / ホイスラー合金 / ハーフメタル / アンドレーエフ反射 / スピン三重項クーパー対 |
研究実績の概要 |
近年,強磁性体の伝導電子スピンや局在スピンを積極的にデバイスへ利用することを目的としたスピントロニクスの研究が盛んに行われている。この分野において,その発展や応用の拡大のために欠かせない物質が「ハーフメタル」である。このハーフメタルを電極材料に用いることによって,トンネル磁気抵抗(TMR)素子や巨大磁気抵抗(GMR)素子の特性向上が図られている。 超伝導デジタル回路の半導体回路に対する優位性は,ジョセフソン素子の高速性・低消費電力性と共に,無損失性という超伝導体本来の基本的な特性に基づくものである。2019年にジョセフソン素子を用いた量子コンピュータの量子超越性が報告された。そして,今年の3月には,超伝導量子コンピュータの国産初号機の稼働を新聞各社が一斉に報じ,量子コンピュータの研究も新しい段階に入った。一方,低消費電力・低温動作可能な超伝導メモリは近年,磁束量子の保持による記録に代わり,素子内に組み込まれた磁性体の磁化の向きで記憶素子を構成する方式が提案され,その集積化の可能性から研究が一気に活性化している。 そこで本研究の目的は,ハーフメタルと超伝導体を融合した新機能デバイスの開発を念頭に,ハーフメタルホイスラー合金と超伝導体を用いたエピタキシャル積層膜とサブミクロンサイズの微細加工技術を駆使し,既存のGMR素子の特性を凌ぐ超伝導スピントロニクス素子を創製に関する研究に取り組むことである。今年度まで,① 超伝導体NbNとハーフメタルホイスラー合金Co2(Fe,Mn)Siのエピタキシャル積層膜の作製を行い,② 強磁場中輸送特性の測定に取り組むことによって,NbNとCo2(Fe,Mn)Siの積層膜を特徴づける物理パラメータを決定した。次いで,③ NbNとCo2(Fe,Mn)Siを用いた面直通電型の超伝導巨大磁気抵抗(CPP-SGMR)素子を作製して,その素子特性を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
強磁性体への超伝導近接効果では,本来のスピン一重項クーパー対に加えて,スピン三重項クーパー対が誘起される。特に,スピンが100%偏極したハーフメタルでは,この現象が顕著になることが期待される。超伝導スピントロニクス素子の構造を最適化するために,超伝導転移温度や超伝導コヒーレンス長などの物理パラメータを導出した。超伝導体NbNとハーフメタルホイスラー合金Co2(Fe,Mn)Siのエピタキシャル積層膜について,最大磁場17Tでの磁場中電気抵抗を測定した。実験データの解析から,ハーフメタルCo2(Fe,Mn)Si層の膜厚の増加とともに,① 上部臨界磁場や対破壊パラメータは減少したものの,② 超伝導コヒーレンス長や拡散係数は増加した。さらに,③ 超伝導転移温度は減少から増加に転じることが明らかになった。超伝導層とハーフメタル層の間のπ結合に起因すると考えらえるため,現在,理論モデルを用いた解析を進めている。 NbN/Co2(Fe,Mn)Si構造の積層膜の輸送特性に関する物理パラメータを見積もることに成功したので,それらの値に基づいてCPP-SGMR素子の層構造やピラーサイズを設計した。そして,超高真空マルチスパッタを用いて,MgO-sub//Cr(20nm)/NbN(50nm)/CFMS(20nm)/NbN(5~9nm)/CFMS(4nm)/NbN(5nm)を成膜した。次いで,微細加工技術を駆使して,ピラー形状がサブミクロンサイズのMgO-sub//Cr(2nm)/NbN(50nm)/CFMS(20nm)/NbN(5~9nm)/CFMS(4nm)/NbN(200nm)/Au(10nm)構造のCPP-SGMR素子に加工した。極低温ではCFMS(20nm)層とCFMS(4nm)層の間に挿入した超伝導NbN層を介して,準粒子やクーパー対のトンネル現象が生じる。したがって,そのNbN層の膜厚を5~9nmで変化させることによって,素子特性が変化することが期待される。現状のCPP-SGMR素子では,数%のGMR比が得られているため,今後,素子特性の改善に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の進捗状況を踏まえて,今後は作製したCPP-SGMR素子特性の評価と改善に取り組む。作業の効率化を図るために,超伝導NbN層が常伝導状態である室温にて,CPP-GMR素子として動作をすることを確認する。超伝導NbN層の抵抗率が従来のGMR素子の場合と比較して小さくはないために,MR比が若干抑えられる可能性はあるものの,GMR効果が観測される。次いで,超伝導NbN層が超伝導状態になる極低温において,CPP-SGMR素子としての特性評価を行う。CPP-SGMR素子の電極層が超伝導状態になることで,GMR素子としての特性の向上が期待されるため,それを実験的に実証する。 CPP-SGMR素子としての動作確認ができた後,CPP-SGMR素子のさらなる特性の向上を目指して,各層の膜厚や積層する材料の種類を最適化する。その際,CFMS(20nm)層とCFMS(4nm)層の間に挿入した超伝導NbN層の膜厚に依存して,CFMSとNbNの界面において,超伝導に起因した準粒子やクーパー対のトンネル効果,アンドレーエフ反射が生じるために,従来のGMR素子とは異なった超伝導素子に特有な現象の観測も期待される。 次いで,超伝導体層とハーフメタル層の間に反強磁性体層を挿入し,スピン三重項クーパー対の生成を促進させる。反強磁性層を介してスピン三重項を誘起することによって,超伝導体からハーフメタルへスピン偏極した電子を高効率で注入することが可能になり,素子特性の向上が期待できる。そこで,超伝導体層とハーフメタル層,反強磁性体層を組み合わせたCPP-SGMR素子を作製・評価し,従来のCPP-GMR素子を凌ぐ性能の向上を試みる。超伝導デジタル回路の分野では,現在,高集積化が可能な新規格の超伝導メモリ開発が盛んに行われている。そこで,低温動作可能な超伝導メモリへ応用することを念頭において,高性能なCPP-SGMRの開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の途中から,ようやくコロナ禍の出張制限が緩和された。しかし,申請者自身が東北大学金属材料研究所で実験に取り組むための出張に関しては,当初の予定よりも開始時期がずれ込んでしまった。また,測定装置の不具合も重なり,装置の修理にも時間を要したため,当初の実施計画よりも遅れが生じてしまった。 今年度は,特に海外出張が難しい状況であったために,学会や国際会議の多くがオンライン開催になってしまった。そのため,学会や国際会議へ参加して発表するために準備していた旅費も,当初の予定よりも安価に抑えることができた。 したがって,次年度に繰り越す助成金は,今年度に予定通り実施できなかった実験費用と,学会や国際会議へ参加して発表するための旅費に充当する予定である。
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備考 |
研究者総覧 http://ris.kuas.kagoshima-u.ac.jp/html/100005069_ja.html?k=%E9%87%8D%E7%94%B0
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