近年、IoT技術を支えるセンサー技術開発とそれらを支える独立電源の技術開発が活発に行われている。独立電源には光や振動、あるいは熱といった環境発電に期待が高まっており、本研究ではその中でも熱電発電に注目して研究を行った。本研究でテーマとなるのは、磁性体を用いた熱電発電効果の一つであるスピンゼーベック効果である。昨年度、素子の構造がフェリ磁性体TbCo層/Pt層/強磁性絶縁体Y3Fe5O12層である多層構造におけるスピンゼーベック効果の研究を行い、伝導電子スピンが回転する現象(スピン回転効果)を見出した。本年度は、この現象の起源がTbCo/Ptの界面効果であるのか、TbCoの内部のバルクの効果であるか明らかにする研究を行った。具体的にはTbCoとPtの膜厚依存性を調べた。その結果、膜厚の変化に対し、変換された総スピン量が変化しないことが明らかになった。膜厚に対して総スピン量の変化がないことは、界面効果でスピン回転が起こり、TbCoの内部ではスピン回転が起こっていないことを明確に示している。 さらに本年度は、薄膜における熱伝導率の評価手法の開発研究も進めた。熱伝導率は熱電変換効率に影響する重要な物理量であるが、薄膜における熱伝導率の評価は難しいことが知られている。そこで異常ネルンスト効果の2つの実験配置(面内磁場配置と面直磁場配置)を使って、数nmの超薄膜まで使える熱伝導率の評価手法を提案した。またこの手法を用いることで2-100nmの厚みを持つCo薄膜の熱伝導率の評価に成功した。
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