研究課題/領域番号 |
20K05310
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
坂本 謙二 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主席研究員 (00222000)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 有機電界効果トランジスタ / 液晶性 / 高分子有機半導体 / 分子配向制御 / 動作安定性 / 電界効果移動度 / 素子間のばらつき / ドナー・アクセプタ共重合体 |
研究実績の概要 |
高分子有機半導体のOFET材料開発において液晶性を発現させることの有用性を調べるため、液晶性とDonor-Accepter (D-A)共重合体をキーワードにpBTTT-C16(液晶性), PCDTPT(D-A), PQTBTz-C12 (液晶性D-A)の3つのp型高分子有機半導体に着目して研究を行っている。本年度は以下の実験を行った。 熱酸化膜(約100 nm)付きSi基板表面をダイヤモンドラッピングフィルムでスクラッチし、その表面をODTSで処理することにより、撥水性ナノグルーブ表面を得た。これを配向誘起層かつゲート絶縁膜として用い、pBTTT-C16, PCDTPT, PQTBTz-C12(Mn = 31,700で液晶性を明確に示さない材料)を活性層材料とするボトムゲート・トップコンタクト型OFETアレイを作製した。 3つの高分子有機半導体に対して、分子配向効果による電界効果移動度の増強が確認できた。しかしながら、ナノグルーブ構造の導入によりOFETの動作安定性が低下した。これらの結果は、撥水性ナノグルーブ表面の使用により電界効果移動度の増強を容易に達成できるが、動作安定性の観点からは使用を避けるべきであることを示唆している。 R2年度から引き続き、分子量を制御して液晶性を示すPQTBTz-C12の合成を試みた。R2年度は、トルエン溶媒を用いて120℃で 反応時間(0.5~12 h)を変えて重合を行ったが液晶性を示す高分子が得られなかった。また、高分子の精製過程で分子量(GPC測定値)が増加するという想定外の現象が観測された。R3年度は、有機合成の専門家にアドバイスをもらいながら重合・精製条件を再検討した。DMFを溶媒として用い、重合温度80℃で反応時間(6 h, 9 h, 12 h)を変えて高分子化した。その結果、DSC曲線において液晶性を示す高分子が得られた。次年度、GPCによる分子量(分布)の測定を行い、OFET特性の測定を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画通り、3つのp型高分子有機半導体(pBTTT-C16, PCDTPT, PQTBTz-C12)を活性層とするOFETsにODTS処理されたナノグループ表面を導入し、分子配向効果による電界効果移動度の増強効果、素子間のばらつき、動作安定性について調べた。本年度の実験では、液晶性を示すPQTBTz-C12が未だ得られていなかったため、分子量が大きく液晶性を示さないPQTBTz-C12(Mn = 31,700)を用いて実験した。 R2年度、PQTBTz-C12の重合過程において予想していなかった現象が観測されたため、本年度は、有機合成の専門家にアドバイスを頂きながらPQTBTz-C12の重合・精製条件を再検討した。検討結果の条件で合成・精製したPQTBTz-C12のDSC曲線を測定したところ、液晶性を示すピークが観測された。今後、GPC測定により分子量(分布)を確認し、OFET特性の測定を行う予定である。 以上より、PQTBTz-C12の合成が予定より遅れているが、研究が停滞することなく、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
R3年度末に合成・精製完了したPQTBTz-C12のDSC曲線において液晶性を示すピークが観測された。本研究の使用目的に合致した材料が得られている可能性が高い。今後、室温GPC、必要であれば高温GPC測定を行い、分子量分布を確認する。この材料を用いて、高分子OFETsの高移動度・高安定動作実現における液晶性の重要性を明らかにする。また、R3年度に合成した材料の分子量分布が許容範囲外であることが判明した場合は、今年度もPQTBTz-C12の合成を行う。 また、製膜プロセスの開発を行い、電界効果移動度1 cm2/Vs以上、素子間のばらつき5%以下、真空環境下でのキャリアのトラッピング時定数1E+7秒以上の動作安定性の実現を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で使用するD-A型液晶性高分子有機半導体の合成を試みているが、PQTBTz-C12の重合・精製過程において予期せぬ現象が観測され、解決に時間がかかっている。本年度、有機合成の専門家にアドバイスをもらいながら、重合・精製条件を再検討した。本年度末に合成・精製終了したPQTBTz-C12において、液晶性を示唆するDSCピークが観測された。今後、分子量分布の確認を行う予定である。分子量分布が許容範囲外である場合に備え、次年度に合成を継続して行えるように本年度使用予定であった物品費の一部を次年度に繰り越した。また、コロナ渦の状況下で調査及び成果発表のための学会がオンライン開催となったため、旅費の使用額が零となり、研究費有効活用のため繰り越した。 次年度は、再合成の必要が生じた場合、R3年度繰り越し金とR4年度の助成金の一部を使い、PQTBTz-C12の合成を行う。残りの助成金は、デバイス作製、新規配向誘起層の探索のための物品費、旅費(学会が現地開催となった場合を想定)、学会関連費として当初の計画通り使用する。
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