1.前年度までに開発を行ってきた「自由エネルギーランドスケープに基づく保磁力計算法」と「修正確率的カットオフ法による磁気双極子相互作用の高速計算」を組み合わせた保磁力解析プログラムの開発を進め、反磁場補正による保磁力減衰が高温下での表面磁気ゆらぎによって抑え込まれることを明らかにした。
2.多結晶における保磁力の配向度依存性にアプローチするため、自由エネルギーランドスケープの横磁場応答に関する高速計算法を開発をすすめた。モンテカルロ法におけるre-weighting法に類似した解析を行うことによって、計算量を大きく増大させることなく任意の磁場方向に対するエネルギーバリアの依存性を得ることが可能となった。
3.多結晶体の計算に向けたテストモデルの構築を行い、多結晶性が保磁力へ与える影響の推定を進めた。理想的な多結晶(界面が非磁性相、磁気双極子相互作用がなし、完全配向)を仮定し、各結晶粒にReplica交換Wang-Landau法で個別に計算した自由エネルギーランドスケープの形状をマップすることで、多数のエネルギーランドスケープ形状を内包した多結晶モデルの構築を行う。この多結晶モデルに更にReplica交換Wang-Landau法を行うことで、(理想化した条件下では)原理的に近似の含まれない多結晶体の保磁力計算を可能とした。この多結晶モデル解析から、多結晶体では磁化反転の起点となる部位が結晶粒の個数に応じて増え、そのことが磁化反転経路の増大につながり、保磁力を減衰させることを見出した。
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