研究課題/領域番号 |
20K05312
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
岡部 博孝 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任助教 (20406838)
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研究分担者 |
平石 雅俊 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任助教 (80712653)
西村 昇一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特別助教 (20836431)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミュオン / μSR / リラクサー / 水素 |
研究実績の概要 |
今年度は,主要な研究対象であるリラクサー強誘電体の合成,物性測定およびμSR測定を行った.昨年度に測定した酸化銅の結果を鑑み,大きな磁気モーメントを有する鉄を含んだマルチフェロイック物質BiFeO3と強誘電材料として広く知られるチタン酸バリウム(BaTiO3)の混晶である磁気リラクサー強誘電体xBiFeO3-(1-x)BaTiO3 (BF-BTと省略)を合成した.室温以下においてμSR測定を行い,異なる組成のBF-BTの縦緩和率を比較することでスピンと電荷揺らぎの分離を試みたが,測定温度領域がネール温度(約650 K)から離れていたため,両者を見分けることが困難であることが判明した.さらに試料に含まれる微量の磁性不純物の影響も確認されたため,合成法の見直しも含めてさらなる高純度試料を用いたμSR測定の必要性があることがわかった. また局所電荷ダイナミクス計測法の高度化を目的として,μSR実験における温度制御の向上を図った.試料温度の均一化のためにより熱伝導率の良い試料ホルダの開発,およびユーザビリティ向上のために測定シーケンスの効率化など,ハードウェアとソフトウェア両面からの改善を行った.主な成果として,次世代電子デバイスの候補材料でもある二酸化バナジウムにおける水素のダイナミクス(元素戦略プロジェクトとの共同)を測定し,計算機によるシミュレーション結果との比較によって,水素の伝導機構と格子欠陥との関係について明らかにすることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度の研究結果を考慮し,計画を半年程度繰り上げて磁気リラクサー研究を開始した.その結果当初予期しなかった幾つかの問題点(測定温度領域,試料品質)を発見することができ,次年度に向けて改善を行う時間を得ることができた. また,元素戦略プロジェクトとの共同である二酸化バナジウムを研究対象に加えることによって,「ミュオンを活用した物質中の水素ダイナミクス研究」という新たな視点を本研究に取り入れることができた.以上の結果により,今年度は当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
合成方法を改善することによって,磁気リラクサー強誘電体(1-x)BiFeO3-xBaTiO3の試料高純度化を達成するとともに,300 K~1000 K程度までの高温領域におけるμSR実験を行う.μSR実験結果を解析して縦緩和率を導出し,複数の組成の異なるデータとの比較から,スピン揺らぎ,ミュオンの拡散による寄与を分離し,極性ナノ領域を形成する電荷のダイナミクスを抽出する.
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:新型コロナウィルス(COVID-19)による影響により,海外での実験および各種会議がオンライン発表になった. 使用計画:感染が沈静化すれば,当初の予定通りに旅費として使用する.沈静化しない場合は,局所電荷ダイナミクス計測法の高度化に必要とされる部材や高速・大容量データの蓄積および解析に必要なリソースの拡充に使用する.
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