研究課題
氷表面は大気中の非常にわずかな酸性ガスによって大きく影響を受ける。本研究では二酸化炭素ガスが氷の蒸発速度にどのような影響を与えるのか調べるため、初年度にあたる2020年度(令和2年度)は主に3つの項目を行った。1.「蒸発速度測定手法の確立」高分解能光学顕微鏡と反射型二光束干渉計とを切り替えることで分子高さレベルでの氷表面観察と、nmオーダーでの高さの定量的な計測とが行えるようになった。ただし、干渉計は熱ドリフトによる高さ変動を拾ってしまうため、観察セルの温度安定性が重要であることも判明した。2.「低温チャンバーの作成」観察セルはペルチェ素子冷却のため温度下限が-30℃であり、極域の寒冷地域(-50℃以下)や極成層圏雲(-80℃)には対応できない。そのため液体窒素冷却のセルを試作した。今後も改良を加えながら来年度中の完成を目指している。3.「他の酸性ガスとの影響の比較」濃いHClガス中では常に氷表面にHCl液滴が存在する。一方、大気濃度のHClガス中では氷を-2℃付近まで冷やすとHCl液滴が消失し、さらに-10℃付近まで冷やすとHCl液滴が再出現することがわかった。このような結果はHNO3ガス中でも確認されており、今後は二酸化炭素中でも起こり得るか、起こらないとしたら何がキーとなっているのかを突き詰めていく。この成果は酸性ガスが氷に与える影響として初めて発見されたものであるため論文として投稿し受理された。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の項目1の測定手法の確立は、当初の研究計画通りに行ったもので順調に進展しており、さらなる安定性を目指して来年度も改良を行う。項目2の低温チャンバーも計画通りに進展しており来年度の完成を目指す。一方、項目3のような想定していなかった成果も得られ論文として受理されたことは酸性ガスと氷の研究の上で非常に大きなことである。これらを勘案すると、トータルとしてはおおむね順調に進展していると言える。
申請内容と変更は無いため、来年度以降も予定に従って進める。来年度の具体的な計画は以下の通りである。1.「蒸発速度測定手法の確立」引き続き温度安定性改良による熱ドリフト軽減を目指す。2.「低温チャンバーの作成」項目1とリンクするが観察セルの温度安定性が重要なため、冷却パーツの小型化などにより熱容量を小さくすることで対応する。3.「二酸化炭素ガス中での蒸発速度測定」項目1により高分解能光学顕微鏡で氷表面を観察しながら、反射型二光束干渉計で蒸発速度を測定できるようになったため、二酸化炭素ガス中での蒸発速度測定を進める。
次年度使用額が生じた理由はCOVID-19の影響が大きい。具体的には、学会が中止またはオンライン開催となり旅費・宿泊費等の使用がなくなったこと、本研究の要となる実験計画に制限が生じ消耗品等の購入が減ったこと、があげられる。その対策として本年度はテレワークで行えることを増やし、実験結果の整理および論文執筆、観察装置の作成依頼などを行った。次年度使用額は今後の研究の推進方策で述べた、蒸発速度測定手法の確立のための温度安定性改良、低温チャンバーの作成に使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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