研究課題
氷表面は、大気中の酸性ガスの化学反応の場として働き、オゾンホールの生成など環境に大きな影響を与えることで知られている。また、研究代表者により酸性ガスは水蒸気から成長する氷の成長様式にも大きな影響を与えることがわかってきた。本研究では地球温暖化をもたらす二酸化炭素が氷の成長・蒸発に与える影響について着目し、高分解能光学顕微鏡により氷表面をその場観察することでこれらの影響を調べた。最終年度にあたる3年目の2022年度(令和4年度)は、二酸化炭素が氷の成長機構に与える影響の調査ならびに、酸性ガス全般が氷に与える影響の総括を行った。実験結果によると、大気中濃度と等しい400 ppmというわずかな二酸化炭素の存在であっても氷に影響を及ぼし、氷表面には液滴と思われる数ミクロンサイズの突起が生成することがわかった。これらは二酸化炭素が無い状況では観察されなかったものである。また、この突起は氷の単位ステップ(高さ0.4 nmの階段)の成長をせき止めることで阻害し、氷ステップの高さが徐々に高くなるバンチング化も同時に起こっていた。結論として、二酸化炭素の存在により水蒸気から成長する氷の速度は遅くなってしまうことがわかった。このような氷表面での液滴の出現ならびにステップのバンチング化は、二酸化炭素だけではなく、塩化水素ガス、硝酸ガスが存在する場合でも確認されている。メカニズムが完全に明らかになったわけではないが、様々な酸性ガスが氷表面への液滴の出現を促す可能性は高い。二酸化炭素による地球温暖化の弊害の1つとして極域の氷床の融解が挙げられているが、二酸化炭素をはじめとする酸性ガスは氷の成長を阻害することでも氷床の減少を招く可能性があることが示唆される。
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