研究課題/領域番号 |
20K05316
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松山 秀生 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (50374187)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スピン / 強磁性 / 超薄膜 / 走査トンネル顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、SrTiO3(STO)(001)面上のPd薄膜が強磁性を発現する機構を調べることを目的として、研究期間内に以下の2つを行う予定である。1.原子レベルで平坦なテラスをもつSTO(100)基板を準備し、その上に楔形状の高さの異なる高品質なPd(001)薄膜を成膜する。この楔形Pd薄膜は階段状に高さが変化し、原子レベルで平坦なテラスで構成された磁性評価に最適な試料とする。2.楔形Pd薄膜の磁性をスピン偏極走査トンネル顕微鏡(SP-STM)を使用し、その表面のスピン情報を画像化する。これにより膜厚と磁性の関係を明らかにする。 本年度は、試料の表面清浄化装置、成膜装置、分析装置(オージェ電子分光装置など)等を搭載したSTM装置を主に用いることで、以下の1から3の結果を得た。 1.STO単結晶を800℃、10時間の脱ガス処理した後、超高真空(UHV)中で950℃、1050℃、1時間の熱処理をすることで高さ0.4 nm(2原子層)のステップとテラス(TiO2面)で構成された原子レベルで平坦な(001)面を得ることができた。ただし、表面の原子は規則的な配列からずれており、酸素欠損と思われる窪みも多く見られた。 2. STOをAr+イオンスパッタリング(3 kV、30分間)を行い、さらに超高真空中、950℃、1050℃で1時間の熱処理を行うことで、数十ナノメートルの領域で原子が平面上に規則的に並んだ√5×√5-R26.6°再構成領域を得ることができた。 3.上記1、2で述べたSTO(001)面に2ML以下のPdを室温、UHV中で成膜し、幅2 nm、高さ0.3 nm程度のアイランドが形成されることを確認した。また650℃の熱処理で幅4 nm、高さ1.5 nm程度のアイランドに増大したが、(001)面が形成されておらず、Pd薄膜はSTO上にエピタキシャル的に成長していないことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響で、実質的な実験時間が減少し、またスイスに発注した真空機器の納期が3ヶ月程度遅れてしまったことなどにより、実験の進捗にかなりの遅延が生じてしまった。 上記研究実績の概要で述べたように、UHV中、1050℃、1時間の熱処理をすることで高さ0.4 nm(2原子層)のステップとテラス(TiO2面)で構成された原子レベルで平坦な(001)面を得ることができた。この平坦なテラスの領域は試料面上の広い面積に渡っているが、その表面上の原子は面内で規則的に配列していない。このため、PdがエピタキシャルにSTO上に成膜される可能性は低い。そこで、Pdの成膜実験に進む前にSTO(001)面上のSr、Ti、O原子が規則的に並んだ(001)面を取得する技術の立ち上げを進め、Ar+イオンスパッタリング後にUHV中で熱処理することで原子が規則的に並んだ√5×√5-R26.6°再構成領域を得ることができた。 当初、原子レベルで平坦なSTO(001)面が得られるようになった後、楔状のPd薄膜をSTO上に成膜する予定であった。しかし、楔状のPd薄膜を成膜する前にSTO再構成面に数MLのPdをエピタキシャルに成長できる条件を探す実験を進めている。またSTO再構成面の領域は数十ナノメートル程度とかなり狭く、その領域を囲むように数原子層程度の大きな凹凸の領域が広がっている。そのため、STO再構成面が形成されている領域を広げる処理条件の探索も並行して行っている。
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今後の研究の推進方策 |
STO単結晶をUHV中、高温で熱処理するとSTO中に酸素欠損が導入される。このため、我々の熱処理ではSTO表面の酸素欠損が生じ、エネルギー的に安定なTiO2面、あるいはSrO面とはならず、酸素原子が少ない不安定な配列になる可能性がある。そこで酸素中での熱処理の検討も進める予定である。今後の研究は、以下の実験を進めていく予定である。 1.STO(001)面上のSr、Ti、O原子が規則的に並んだ再構成面の領域を広げる処理条件を探索する。 2.上記 STO(001)再構成面上に数MLのPdをエピタキシャル成長し、広いPd(001)面をもった薄膜、あるいはアイランドを形成する。 3.原子レベルで平坦なテラスをもつSTO(100)基板に楔形状の高さの異なるPd(001)薄膜を成膜する。この楔形Pd薄膜表面は階段状に高さが変化し、原子レベルで平坦なテラスで構成された磁性評価に最適な試料とする。 4.上記2、あるいは3で得られたPd(001)薄膜をSP-STMを用いて、その表面のスピン情報を解析し、膜厚と磁性の関係を明らかにする。
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