研究課題/領域番号 |
20K05320
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
岡林 則夫 金沢大学, 数物科学系, 助教 (90387853)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エネルギー散逸 / 分子操作 / 動摩擦 / 静止摩擦 / 原子間力顕微鏡 / 走査型トンネル顕微鏡 / 非弾性電子トンネル分光 / 国際共同研究 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、プローブ顕微鏡の金属探針とCu清浄表面上のCO分子との相互作用によるエネルギー散逸の関係を、実験と理論の両面から解明することである。実験はドイツ・レーゲンスブルグ大、Franz J.Giessibl教授との共同研究であり、理論に関してはスペインDIPCのThomas Frederiksen教授との共同研究である。これまでの研究で、探針がCu(110)表面上のCO分子に近づくと、安定な吸着サイトがトップサイトからブリッジサイトに変化し、その際にエネルギーの散逸が起きることを明らかにした。更に、そのようなブリッジサイトへの吸着が、(1)金属探針を用いてCO分子を動かす際の微視的メカニズムの理解に不可欠であること、(2)静止摩擦力や動摩擦力といった摩擦の基本概念を理解する上でも重要であること、を見出した。上記の結果は、Cu(110)表面に対して見出してものであるが、Cu(111)基板に対しても研究を拡張し同様の議論が成立すること、すなわち一般性が成立することを示した。更に、摩擦を微視的に議論する時に良く用いられるPrandtl-Tomlinson Modelモデルと比べて時の優位性も明らかにした。これらの、成果は、プレプリントサーバーarXivにおいて報告している(Dynamic friction unraveled using an atomically defined model system Norio Okabayashi, Thomas Frederiksen, Alexander Liebig, Franz J. Giessibl arXiv:2112.12286)。現在は論文として二報を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、プローブ顕微鏡の金属探針をCu清浄表面上のCO分子に近づけると、(1)探針が遠いときは占有されていないブリッジサイトが探針が近づくことで占有されること、(2)トップサイトとブリッジサイトの間にはエネルギーの障壁が存在すること、(3)そのことによりエネルギー散逸に不可欠なヒステリシスが生じること、を実験と理論の両面から明らかにした。これは、本研究の目的そのものであり、研究が順調に進展していることを示している。更に、このような中間状態(ブリッジサイトにおける吸着)の存在を理解することで、分子操作の微視的メカニズムや分子操作における静止摩擦力や動摩擦力といった摩擦の基本概念を理解できることを示し、上記の議論が基板の方位によらず成立することも示した。これらの成果は、表面科学や摩擦の研究分野に対して重要な知見を与えるので、本研究の進捗は十分と言える。現在は、二報の論文が査読中であり、近々、出版できると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
プローブ顕微鏡の金属探針とCu清浄表面上のCO分子との相互作用に関して、理論において化学吸着に着目した議論が不足しているのでそれを進める。実験に関しては、探針を横方向に振動させる測定への展開を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの流行により予定していた出張をとりやめたので。
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