研究実績の概要 |
本研究の目的は、プローブ顕微鏡の金属探針と、金属清浄表面上に吸着した一酸化炭素(CO)分子との間の相互作用ならびに構造変化、その際に発生するエネルギー散逸の関係を、原子間力顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡、第一原理計算を組み合わせ解明するというものである。実験はドイツ・レーゲンスブルグ大のGiessibl教授のグループとの共同研究であり、理論に関してはスペインDIPCのFrederiksen教授との共同研究である。これまでの研究において、金属探針をCu(110)表面上のCO分子に近づけると、安定な吸着サイトが銅原子の直上(トップサイト)から銅原子と銅原子の間(ブリッジサイト)に変化すること、探針を近づけたり遠ざけたりを繰り返すと、CO分子がトップサイトとブリッジサイトの間を行き来し、その際にエネルギー散逸が観測されること、を見出した。更に、そのようなブリッジサイトでの吸着が、金属探針によりCO分子の操作やその際に発生する摩擦を理解するうえで重要であることを見出した。以上の結果は、“Energy dissipation of a carbon monoxide molecule manipulated using a metallic tip on copper surfaces”, Norio Okabayashi, Thomas Frederiksen, Alexander Liebig, Franz J. Giessibl PHYSICAL REVIEW B 108 (2023) 165401ならびに”Dynamic friction unraveled by observing an unexpected intermediate state in controlled molecular manipulation”, Norio Okabayashi, Thomas Frederiksen, Alexander Liebig, Franz J. Giessibl PHYSICAL REVIEW LETTERS 131 (2023) 148001において報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、プローブ顕微鏡の金属探針をCu(110)清浄表面上のCO分子に近づけると、(1)安定な吸着サイトが銅原子の直上(トップサイト)から、銅原子と銅原子の間(ブリッジサイト)に変化すること、(2)探針を近づけたり遠ざけたりを繰り返すと、CO分子がトップサイトとブリッジサイトの間を行き来し、その際にエネルギー散逸が観測されること、を実験と理論の両面から明らかにした。これは、本研究課題の目的に対する直接的な答えであり、その内容は以下の二本の論文、“Energy dissipation of a carbon monoxide molecule manipulated using a metallic tip on copper surfaces”, Norio Okabayashi, Thomas Frederiksen, Alexander Liebig, Franz J. Giessibl PHYSICAL REVIEW B 108 (2023) 165401、”Dynamic friction unraveled by observing an unexpected intermediate state in controlled molecular manipulation”, Norio Okabayashi, Thomas Frederiksen, Alexander Liebig, Franz J. Giessibl PHYSICAL REVIEW LETTERS 131 (2023) 148001、として発表している。更に、これらの論文では、探針を横方向に動かしたときに引き起こされる分子操作とその際に発生する摩擦との関係について報告しており、十分な進展と考える。
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