研究実績の概要 |
昨年度に行ったAB型二元系材料におけるヤヌス型(表面と裏面とで構成元素が異なる構造での)原子層の形成可能性に加えて、遷移金属ダイカルコゲナイドを対象とした検討を行った。XYZ型(Xは遷移金属、YおよびZはカルコゲン)擬二元系での遷移金属ダイカルコゲナイドに対して、材料として9種類(X=Mo, Cr, WおよびYZ=SSe, SeTe, STe)を採用してヤヌス型の原子配置をとる原子層および混晶(YおよびZの元素が格子位置にランダムに配置したもの)に対する凝集エネルギー計算を実行した。全ての材料において、混晶での凝集エネルギーがヤヌス型の原子層のそれに比べ低くなり、混晶が安定な原子配置であることが示された。しかしながら、そのエネルギー差はMoSSe、WSSe、CrSSeにおいて小さいことから、作製条件によってはヤヌス型原子層が形成可能であると考えられる。実際にMoSSeにおいては実験的にその作製が報告されており、MoSSeに加えてWSSeおよびCrSSeにおいてもヤヌス型の原子配置を取り得ることが示唆された。これらのヤヌス型原子層の安定性はXYZを構成する際のXY2とXZ2との格子不整合度に起因しており、格子不整合度の小さい材料系においてヤヌス型原子層の作製が可能であることが示された。さらに、MoSSe、WSSeおよびCrSSeのバンドギャップの計算値はそれぞれ1.1, 0.94および1.2eVとなり、XYZ型でのヤヌス型原子層のバンドギャップはXY2およびXZ2原子層のバンドギャップを補間する値をとり得ることを見出した。
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