研究課題/領域番号 |
20K05325
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
永井 滋一 三重大学, 工学研究科, 准教授 (40577970)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 機械学習 / 電界イオン顕微鏡 / トモグラフィー |
研究実績の概要 |
近年の電子デバイス等の最小線幅はナノメートルの領域に到達し,これらの性能は材料の組成,および原子配列に極めて敏感になる。そのため ,物質を3次元的に原子レベルでの詳細な顕微鏡法が要求されるが,原子分解能を有する顕微鏡法は限られている。その1つとして,電界イオン顕微鏡(FIM)は比較的簡便な構造で原子分解能像が得られるが,観察条件の選定および像解釈の困難であることは否めない。本研究では,FIMに最新のデジタル画像解析法と機械学習を実装するとともに,良質なFIM像を学習データとして利用することで,新たな原子分解能トモグラフィー観察手法としての可能性を見出す。 2020年度は,FIM像で観察されたタングステン表面の結晶方位,ならびに個々の結晶面の同定を,画像認識をベースとした機械学習アルゴリズムによる自動判別の可能性を検討した。学習データには,タングステン表面のFIM像の高解像度画像,および実験データを補完するためにシミュレーションによって生成されたFIM像を用いた。さらに実験で観測されたFIM像を機械学習に適した形式に変換するための画像処理法として,原子位置を強調する画像フィルターを検討した。これらのデータを畳み込みニューラルネットワーク(CNN),および既存の機械学習アルゴリズムであるFaster-R-CNNとYOLO-v3による学習モデルの構築を試みた。その結果,タングステン結晶方位の判別精度は,90%以上に達することが確認された。さらに,個々の結晶面の同定については,判別精度は低いものの(110),(112),(111)などの低指数面の判別が可能であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機械学習によるFIM像の自動判別技術の開発に関して,(1)実験およびシミュレーションによる標準データベースの構築,(2)FIM像に対する画像処理法の検討, (3)機械学習によるFIM像の自動判別アルゴリズムの検討の3項目について実施した。これらの結果より,実験データを学習データとして利用する際に必要な画像処理として,ガウシアンフィルタと中央値フィルタによるノイズ除去の有効性を確認した。さらに,シミュレーションによって実験データを補完することで,機械学習による結晶方位の判別精度を90%まで改善することに成功した。個々の結晶面の判別精度については,画像認識による自動判別の向上には,学習データの不足による精度向上あるいは結晶学的なアプローチが必要であることが判明している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に実施した検討事項を継続しつつ,(1)FIM像で観察される個々の結晶面の判別精度の向上,(2)3次元再構築アルゴリズムを検討する。昨年度の研究結果より,機械学習によるFIM像で観察される結晶面の判別には,画像認識だけでなく結晶学的な制約を付与することが必要であることが明らかになった。これらを実現するために,FIM像の画像処理法および数理的アプローチを検討する。これらについて,2021年度前半に実施し,同後半にFIM像から表面原子位置の抽出,および3次元再構築に関するアルゴリズムの構築を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響により,当初参加予定の国内会議,国際会議が中止あるいはオンライン開催となったため,旅費および国際会議参加費に残額が生じた。令和3年度についても,新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため,国内・国際会議ともに,オンライン開催あるいは延期が予想される。そのため,残額を機械学習用ワークステーションおよび電界イオン顕微鏡の保守に関する消耗品購入に充てる。
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