本研究では,原子分解能で3次元構造を観察可能な顕微鏡法の開発を実施した。その手法として,針状試料表面の原子配列を観察できる電界イオン顕微鏡(FIM)像に,デジタル画像解析法と機械学習的解析を適用した新たな原子分解能トモグラフィー観察手法としての可能性を検討した。 タングステン針試料の結晶方位およびFIM像中に結像される個々の結晶面を同定する方法として,物体検出モデルによる結晶面の自動抽出およびk近傍法による試料の結晶方位を自動同定するシステムを構築した。その性能を評価した結果,k近傍法によって個々の結晶面の幾何学配置を分類することで,85%以上の精度で結晶方位を同定できる性能を達成した。 試料表面での原子位置を反映しているFIM像で観察される各輝点を抽出するため,電界蒸発中に連続撮影したFIM像のフレーム間の差分をとり,位置情報を抽出するアルゴリズムを検討した。また,自動抽出された輝点の強度も同時に抽出するシステムを構築した。自動抽出された原位置の情報から再構成したトモグラフィー像を描画するソフトウェアを開発し,FIM像の空間分解能0.3nmの精度で再構成可能であることを実証した。さらに,FIMの観察と記録と同時に,原子位置を自動抽出するシステムを既存のFIM装置に実装して,その場解析可能なシステムを開発して,現在運用を進めている。本研究によって,FIMへの機械学習の適用による原子分解能トモグラフィー顕微鏡に関して実現可能性を見出すことができ,各輝点の像強度の詳細な解析を今後検討することで元素分析への展開が期待される。
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