本研究では、これまでに利用されている低速電子回折装置と比較して、よりシャープな回折スポットを得るために、熱電子源を電界放出電子源に置き換えた装置の開発・改良を進めた。電界放出電子は、熱電子に比べてエネルギーの分散が小さく、コヒーレント長が長いため、回折スポットをさらにシャープにすることが可能である。電界放出電子源としてタングステン針を用い、その先端を電界誘起ガスエッチング法によって尖鋭化した。これにより、従来の熱電子源に比べて、回折スポットの半値幅が半分以下になった。また、引き出し電極や偏向電極をコンピュータ制御することにより、100 eVから500 eVという広い電子線のエネルギー範囲にわたって鮮明な回折パターンを得ることができるようになった。さらに、超高真空チャンバ内で針を加熱できるようにしたことにより、高い安定度を得ることができるようになった。また、複数のタングステン針を同時に尖鋭化する方法についても研究を行った。 一方、タングステン針に替えて、六ホウ化ランタンの針の使用を検討した。六ホウ化ランタンの針は物質・材料研究機構の唐捷主席研究員らによって開発されたもので、化学的に非常に安定な物質であるために、長時間にわたって安定度の高い電界放出電流を得ることができるという優れた特徴を持っている。このため、六ホウ化ランタンの針を、本研究で開発した装置に導入し、そこから放出された電子線を使って回折パターンを得ることができるように装置の改良を行った。六ホウ化ランタン針の使用に際しては、加熱による針の清浄化と針先端に電界を加えて活性化する作業が必要であり、その条件などについて実験を行った。また、六ホウ化ランタン単結晶の表面構造を低速電子回折によって構造解析した。これにより、(111)面や(110)面においては、6個のホウ素による八面体が切断された構造になっていることを見出した。
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