研究課題/領域番号 |
20K05331
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
横山 崇 横浜市立大学, 理学部, 教授 (80343862)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 分子ダイオード / 走査型トンネル顕微鏡 / 表面構造相転移 / トンネル分光 |
研究実績の概要 |
本研究では、ドナー性分子とアクセプター性分子を接続することで、単分子レベルで動作する分子ダイオードの実現し、その伝導メカニズムの解明を目指す。これまで、一つの分子内にドナー性とアクセプター性を組み込んだ単一分子ダイオードが 多く調べられているが、本質的な理解には至っていないと言える。そこで本研究では、ドナ ー性とアクセプター性を単一分子に組み込むのではなく、基板上にドナー性分子とアクセプター性分子を積層させることでダイオード構造を作成することを目指す。その積層構造や電子状態、伝導特性の詳細を走査型トンネル顕微鏡(STM)で明らかにし、単一分子ダイオ ードへの理解を目指す。 すでに、Cu(111)表面上において、ドナー性分子としてヘキサベンゾコロネン、アクセプター性分子としてTCNQを用いていたが、本研究では基板をSi(111)-Ag表面に変えた実験を行なった。Si(111)-Ag表面は、活性なSi表面をAgで終端させることで不活性かつ金属的な表面となることが知られており、Si三量体とAg三量体からなる表面構造を形成している。そこでまず、このSi(111)-Ag表面上にブチル基を付加したヘキサベンゾコロネン(HB-HBC)を蒸着し、その配列構造や吸着状態を低速電子回折(LEED)および走査型トンネル顕微鏡(STM)で調べた。さらに、77Kの低温STM観察によって、ヘキサベンゾコロネン直下にあるAg三量体が構造変化することも明らかになった。今回の結果は、分子が表面吸着した場合に、その直下のAg三量体は相転移温度(150K)よりもかなり低い77Kにおいても構造的に揺らぐことを示している。STM像の時間変化や温度変化から、この構造変化の活性化エネルギーなど、定量的な解析を行うことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表面上にドナー性分子とアクセプター性分子を積層させることで、分子ダイオード作成を目指している。すでに、Cu(111)表面上において、ドナー性分子としてヘキサベンゾコロネン、アクセプター性分子としてTCNQを用いていたが、本研究では基板をSi(111)-Ag表面に変えた実験を行なった。Si(111)-Ag表面は、活性なSi表面をAgで終端させることで不活性かつ金属的な表面となることが知られており、Si三量体とAg三量体からなる表面構造を形成している。そこでまず、このSi(111)-Ag表面上にブチル基を付加したヘキサベンゾコロネン(HB-HBC)を蒸着し、その配列構造や吸着状態を低速電子回折(LEED)および走査型トンネル顕微鏡(STM)で調べた。これより、HB-HBC分子の吸着位置や木配列構造があきらかになり、ブチル基の吸着位置の違いによって複数の吸着構造が存在することが明らかになった。これは、ブチル基とSi三量体およびAg三量体の相互作用の微妙なバランスによるものと説明できる。さらに、77Kの低温STM観察によって、ヘキサベンゾコロネン直下にあるAg三量体が構造変化することも明らかになった。元々、Si(111)-Ag表面では、三量体を形成したAg原子が、150K以下でその大小が変化する表面構造相転移が知られている。今回の結果は、分子が表面吸着した場合に、その直下のAg三量体は相転移温度(150K)よりもかなり低い77Kにおいても構造的に揺らぐことを示している。STM像の時間変化や温度変化から、この構造変化の活性化エネルギーなど、定量的な解析を行うことができた。この変化は、基板表面の電子状態にも影響するため、ダイオード特性にも影響すると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今回、Si(111)-Ag表面上の(ドナー性分子)HB-HBC分子吸着状態が明らかになったが、ドナー・アクセプター積層までは至らなかった。今後は、アクセプター性分子を積層させ、その電子状態やダイオード特性を明らかにする。特に、Si(111)-Ag表面はCu(111)表面に比べて複雑な構造となっているので、伝道特性の位置依存性が生じることが考えられる。基板構造が積層型分子ダイオードにどのような影響を与えるのかに着目して実験したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で実験が予定よりも実行できず、消耗品の執行を翌年度に持ち越した部分があった。令和3年度は、持ち越し分を加味して、執行する予定である。
|