本研究では、長周期の清浄金属再構成表面および、格子定数の不整合により生じる長周吸着表面の電子構造を、密度汎関数法の範囲の第一原理計算により明らかにした。この際、エムベッディッドGreen関数法を用いて半無限結晶表面の電子構造を計算することにより、(i)長周期ポテンシャルによって表面局在電子バンドに生じるミニバンドギャップ、(ii)表面ブリルアン域の畳み込みにより共鳴状態に変化する表面局在状態のエネルギー幅などを正確に解析することにより、通常の薄膜表面近似では得られない電子構造に関する重要な知見を得ることができた。 令和2年度は、 Ir(111)上で長周期モアレ構造をなすグラフェン単原子層の電子構造を調べ、グラフェン2次元ディラックバンドが下地との相互作用によりどう変化するかを解明した。令和3年度はヘリングボーン再構成として有名なAu(111)-(22×√3)表面の電子構造を調べ、1x1構造の表面バンドのレプリカが、超格子の各逆格子点に生成され、レプリカと元の表面バンドとの交差点に、交差2バンドの相対スピン方向に依存するバンドギャップが生じること等を明らかにした。令和4年度は、表面第1原子層が擬六法格子を成すIr(001)-(5x1)表面の電子構造を調べ、鏡像ポテンシャル状態に長周期ポテンシャルによるミニバンドギャップが生じることを示した。また、原子列欠損再構成で知られるAu(110)-(1x2)表面の電子構造を計算し、再構成によって共鳴状態となる表面バンドのエネルギー分散関係を調べるとともに、表面共鳴バンドの異方的なラシュバ分裂の起源が、反転対称性の破れによって生じる表面原子内の軌道角運動量であることを明らかにした。
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