研究実績の概要 |
絶縁体/強磁性体の埋もれた強磁性層のスピン分解電子状態測定を行うために、スピンフィルターを用いたスピン分解硬X線光電子分光法を開発し、MgO層(2 nm)に埋もれたFe薄膜の価電子帯領域のスピン分解電子状態測定で動作の検証を行った。この手法を用いて、ハーフメタル候補物質であるCo2MnSiに対する価電子帯領域のスピン分解電子状態の温度依存性測定(20 K, 300 K)を実施した。励起光5.95 keV, 総エネルギー分解能~0.65 eVの条件であっても、ハーフメタル性の根拠となる多数スピン電子状態の金属性と少数スピン状態でのFermi準位を跨ぐギャップを直接測定することに成功した。Co2MnSiのFermi準位でのスピン偏極度は約90%以上で、少なくとも300 Kまではハーフメタル性を維持するが、価電子帯スペクトルの形状に僅かながらも温度依存性が観測された。界面およびバルクの価電子帯スペクトルの温度依存性の詳細を調べるため、X線全反射と組み合わせた高分解能硬X線光電子分光(分解能0.15 eV)をAlOx/Co2MnSiに対して行った結果、界面とバルクの電子状態の違いならびに温度依存性(20 K~300 K)が観測された。この温度依存性は、有限温度を考慮した電子状態計算との比較により、Co t2gおよびeg状態の温度依存性として説明されることが明らかとなった。この温度依存性は、バルク多結晶Co2MnSiでは観測されない。電子状態の温度依存性は、高品質なエピタキシャルCo2MnSiを用い、かつ、遷移行列要素による軌道選択性を通じて電子状態を観測することで初めて明らかとなった。また、界面近傍の磁化は、バルクに比べて小さくなることを内殻領域の磁気円二色性硬X線光電子分光から明らかにした。
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