研究課題
IoTやAIデバイスを活用したSociety5.0社会では、情報通信機器の小型、高性能、省電力化は必須である。高機能機器を支える基本素子である電界効果型トランジスター(MOS-FET)にはシリコンの酸化絶縁膜が利用されており、その膜厚は原子数層レベルとなっている。その実現には、原子レベルで酸化反応を理解および制御することが不可欠である。本研究では、放射光表面分析と超音速酸素分子線を使ってシリコン表面酸化の理解と制御を目指す。具体的には、表面に衝突する酸素分子の並進エネルギーや酸化剤による酸化物の違いをSPring-8の軟X線放射光光電子分光などによって捉える。並進エネルギーによって酸素分子の解離吸着反応経路(パス)を変えることによって生じる吸着状態や酸化物の違いを調べるとともに、効率的な酸化膜形成の実現あるいは熱反応では不可能な酸化物形成に必要なプロセス条件を探索する。令和3年度においては、放射光軟X線リアルタイム光電子分光を使って、酸素ガスによるSi表面酸化(ドライ酸化)の酸化速度、酸化価数の温度、圧力、不純物(n型,p型)依存性を測定し、表面吸着状態や界面歪と電子状態の関係を詳細に調べた。放出シリコン原子と生成する欠陥が、酸化反応サイトとしてどのように機能するのかを調べた。また、入射酸素分子の並進エネルギーによって分子状吸着酸素の生成を制御して、欠陥サイトでの反応を調べた。軟X線光電子ホログラフィ―によるSi(111)7×7表面上の酸素吸着構造の測定結果の解析を進め、初期吸着サイトや酸化物構造のモデル化を進めた。さらに、数百本におよぶ光電子スペクトルの精密高速解析に必要なプログラムの開発を進めるとともに、金属材料などの他の酸化反応実験を進めた。シリコン酸化反応との差異を通じて表面酸化反応の理解を深め、関連する実験結果の論文発表を進めた。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度においては、新型コロナウイルス感染症の拡大により、当初予定していた研究発表のための出張、特に海外に影響を受けた。しかしながら、コロナ禍においても装置の調整、特性評価、試料調整方法の確立、反応条件や放射光光電子分光測定条件の探索、新しい実験方法への取り組みといった研究全体を進めるうえで必要な準備を可能な限り進めた。さらに、スペクトル解析プログラムの開発やウィズコロナ・アフターコロナを見据えた測定のリモート化・自動化に必要な技術開発と情報収集を進め、ガス供給システムの精密制御による自動化などを実現した。放射光軟X線リアルタイム光電子分光を使って、酸素ガスによるシリコン表面酸化の酸化速度、酸化価数の温度、圧力、不純物(n型,p型)依存性を測定し、表面吸着状態や界面での歪と電子状態の関係を詳細に調べた。さらに、シリコン酸化反応の理解と特徴を露にするために、金属などの表面酸化実験を進め、データ解析および成果発表を進めた。
酸素ガスによるシリコン単結晶表面の酸化に観られる分子状吸着酸素に関しては、これまで酸化開始直後の極初期に生成する吸着状態の一つと考えられていた。しかしながら、実験および詳細な解析を進める中で、この分子状吸着酸素が、酸化膜成長後にも観察されることが分かってきた。この分子状吸着状態に関する予想外の結果は、酸化膜成長における分子状吸着酸素の新たな役割を知る手掛かりとなる。そして、この分子状吸着状態が、酸化膜とシリコン基板界面における欠陥や放出シリコン原子などとの関連性が推察されている。分子状吸着酸素の界面反応に着目して、今後は軟X線放射光リアルタイム光電子分光観察から得られる酸化速度、酸化価数、歪などの温度、圧力、不純物(n型,p型)依存性を詳細に調べる。さらに、ここから生まれる膨大な反応条件に関するデータセットの処理を実現するために、制御システムや制御・解析プログラムの開発を続け、高精度な酸化反応プロセスのデータセットの構築を実現する。また、光電子ホログラフィ―で明らかとなりつつある酸素吸着構造に関するモデル解析をさらに進め、シリコン表面の酸化反応に関する研究成果を発表を進める。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて発出された、蔓延防止等重点措置に伴う移動制限や会議のリモート開催により、当初計画において、令和3年度に予定していた口頭発表がリモート開催となったため、会議に係る旅費などを執行できなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、令和4年度分経費と合わせて、会議参加や研究成果発表に係る費用や実験に係る物品購入費用等として使用する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (13件)
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