研究課題/領域番号 |
20K05339
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
鯉田 崇 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 上級主任研究員 (70415678)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 透明導電膜 / 安定性 / 信頼性 |
研究実績の概要 |
低い電子濃度(1-3E20cm-3)で高導電性を実現できる高移動度透明導電膜は、自由キャリア吸収が少ないため、可視域だけでなく近赤外域まで透明である。このような広帯域の透明電極の開発は、既存の電子光デバイスの性能向上や新しいデバイスの創出をもたらす。本研究では高移動度透明導電膜の材料研究を実施している。 本年度は、直流アーク放電を用いたイオンプレーティング法(反応性プラズマ堆積法)を用い、加熱製膜(200℃)によりIn2O3:W、In2O3:Ce多結晶薄膜、非加熱製膜で非晶質薄膜を形成した後に加熱処理(250℃)した固相結晶化In2O3:H、In2O3:W,H、In2O3:Ce,H多結晶薄膜を作製した。薄膜製造時の酸素分圧を変化させることにより、電気特性は大きく変化し、添加金属不純物量の増加とともに、高導電性(高キャリア濃度・高移動度)を実現できる最適な酸素分圧は減少した。このことは、添加金属がInよりもOとの結合エネルギーが高いことで説明することができる。最適酸素分圧で作製した薄膜について電気特性の比較を行ったところ、同じ多結晶構造でも、結晶化プロセスにより電気特性およびその安定性(高温耐性・恒温恒湿下での耐性)は大きく変化することが分かった。前者の多結晶薄膜は比較的高い移動度(70-80cm2V-1s-1)を示し、恒温恒湿下で安定、製膜温度より高い温度で加熱処理することにより移動度は110-140 cm2V-1s-1と増加することが分かった。一方、後者の多結晶薄膜は、初期状態で100-160 cm2V-1s-1と非常に高い移動度を示す一方、恒温恒湿下および高温加熱プロセスでは前者の多結晶薄膜と較べると劣化し、その劣化度合いは薄膜内のH量が増えるにつれ増加した。 本結果は、広帯域透明電極をデバイス適用するうえで有益な知見と考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記した酸素分圧を系統的に変化させた各種透明導電膜の製造を実施し、現在はそれらの薄膜に対してHall測定および分光エリプソメトリー測定を実施し、電気特性および光学特性を評価しているところである。電気的移動度および光学的移動度の評価を行っている中で、信頼性という観点から重要な知見が得られたので、本年度の研究実績の概要およびキーワードとして挙げた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、作製したIn2O3:W、In2O3:Ce多結晶薄膜および固相結晶化In2O3:H、In2O3:W,H、In2O3:Ce,H多結晶薄膜に対して、Hall測定および分光エリプソメトリー測定を用い、自由電子濃度、電子の有効質量および緩和時間を算出する。今年度実施した高温加熱処理した薄膜は低温プロセスで製造した非平衡状態が緩和された薄膜と言えるので、これらの薄膜に対する評価も併せて実施することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍となり、予定していた学会が中止あるいはオンライン開催となり、その結果、旅費が0円となった。今年度も同様の事態が想定されるため、旅費分は研究推進のための物品購入費および外注分析費に充てる。
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