本研究の目的は、「非ブラッグギャップ」が生じる系である固体・液体超格子に対して、ギャップの形成メカニズムと共鳴透過特性を明らかにすることである。これまでに行った数値計算により、この系に生じるギャップは、周期性に基づくブラッグギャップと局所共鳴に基づくギャップに分類できることが示された。また、局所共鳴を生じさせる共振器構造が1つの場合に生じる共鳴透過は、そのペクトル形状がファノ式と呼ばれる共鳴式でよく記述されるファノ共鳴であるということが明らかになった。今年度は、まず、局所共鳴によるギャップの形成メカニズムの本質をなるべく簡単なモデルを用いて理解することを試みた。1次元単原子鎖の構成原子の一つに側鎖を接続しその透過スペクトルの計算を解析的に行った。その結果、側鎖の固有振動数に対応する振動数において局所共鳴に起因した完全反射が生じ、透過率が厳密に0となることが示された。さらに、側鎖に含まれる原子の質量あるいはばね定数、その個数を変化させることで固有振動数を制御できることを具体的な数値計算例とともに示した。次に、1次元単原子鎖の構成原子の全てに側鎖を結合させることにより、新たなバンドギャップが生じることが示された。1次元鎖と側鎖の間の結合を切ると、側鎖の振動モードは独立なN個の振動子が振動するアインシュタインフォノンとなり、フラットバンドを形成する。このフラットバンドと1次元鎖の分散曲線が交差する振動数でバンド間の反発が生じ、その結果としてバンドギャップが生じる。このようなメカニズムで非ブラッグギャップが生じることがわかった。また、固体・液体超格子におけるフォノン変位の従う方程式は、この1次元モデルにマッピングできるので、以上の研究により本質的な理解は得られたと思われる。さらに、両者の間のパラメータの関係をより詳細に調べることは、デバイスへの応用に対して有益である。
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